第1章 ヒロイン、ASOする!

01 まずは現物がないと始まらないよね!

お風呂に入ってたらネタが降りてきたので取り敢えずカキカキ…

※2020年2月上旬頃ですけどねw>書き始めた頃

━━━━━━━━━━━━━━━


- ASO アブソリュート・システム・オンライン -


今日はASOの発売日。マルチ入力対応VRシステム「ASYURA」に対応する初の大規模オンラインゲームだ。ちなみに略称を書いても「VR対応MMORPG」となっていてちっとも短くなっていない。


ASYURAって何かの単語の頭文字を取ってるって聞いたことがあるんだけど詳しいことは知らない。きっと、何か適当なそれらしいい葉を並べて頭文字を並べ替えて当てはまった名前にしてるんだと思うんだけど。


ゲームの名前からしてその臭いがぷんぷんするんだけど、内容紹介を書いた記事を読んで「自分にピッタリな気がする!」と思って予約した。尤も、ソフトもそうだけどゲーム機器も抽選して当選したら買えますって聞いた時は「あ、だめだこりゃ」と思った。その理由は「自分のくじ運が絶望的」だから。友達にも、「あんたが当選するなら、あたしたちだったら10台は買えちゃうよ!」って豪語されたってくらいにはね…トホホ~。


で、抽選結果の封書が届いた時は凄いびっくりした。外れの人には通知は来ないって聞いてたから。でも、ソフトだけ当選してもゲーム機器が外れなら遊べないしな…と思ってたんだけど、何と!…封筒の中には両方の当選通知書が入ってた。ラッキー以外の何物でもないんだけど…思わず、


「え、何これ…ドッキリ?」


と疑ってしまっても無理は無いと思う。それだけわたしのくじ運は絶望的だったんだ。


ちなみにASYURAは発売(初回生産分は何と1万台!…って多いのかどうかよくわからないけど)して1年以上経過しているんだけど、生産が間に合わないのかよくわからないけど予約しないと買えないし予約しても普通に何箇月も待たされるみたい。今回は半年ぶりに出荷される抽選予約分で、全部で1千台くらいしかないみたい。くじ運が絶望的なわたしがその抽選予約分に当選!…ということらしいです、はい。



- ASYURA(あしゅら) -


ASYURAもASOも発売日は同日って話しだったので、わたしは発売日まで待って当選通知の後に送られてきた予約票を持って指定販売店へ向かった。電車に乗って2つ隣の大き目の街にそのお店はあるんだけど、やっぱりというか結構お客さんが居た。全員が全員、ASYURAとASO目当てのお客さんなのか。それとも、普通にいつもこのくらい混雑してるのかは不明だったけど…。普段は学校と家を往復するだけの人生で、余り出歩くことが無いからなぁ…。これも住んでるマンションが便利過ぎる弊害かな?


(というか、既に発表されているASYURAの発売日ってどういう意味なんだろ?)


…という疑問が湧く。


「普通、既製品の工場出荷に合わせて届いた製品がお店に並んでも「発売日」とはいわないよね…新発売のソフトは兎も角」


と、ぶつぶつ呟いていると行列が動き出すので慌てて前に進む。


「はぁ…早く買って帰りたいなぁ…」


混雑している雑踏の中に居ると息が詰まりそうになる。わたしが女の子って点を除いても、インドア派の人なら皆そう思ってるに違いない。


「…あ、次の次だ」


ようやく終わりが見えて来たので懐からお財布を用意する。ASYURAとASOの合計の代金もそれなりの金額になるので警戒する。しっかり財布を持っててもそこは女の子の非力な細腕だ。用心するに越したことはないよね!


(いや、慣れてないからキョロキョロしてるんじゃないよ? 誰だって大金を持ってればそれなりに…)


…行列に並ぶのに飽きたのかゲームして暇を潰す人。隣の人と喋ってる人。あくびしてる人など…だぁ~れも緊張してませんでした。思わずがっくりしてるとついに目前にレジが!


「はい、次の人」


「お、おねがしましゅ…します…」


…噛んだ。顔を真っ赤に染めて立ち尽くす。穴が有ったら入りたい! 後ろからクスクスと笑う声が聞こえてくるけど、振り向く余裕もない!!


「はい、確かに。ポイントカードは持ってますか? 無ければお作りしますけど」


何とか色々と総動員させて財布から予約票を取り出して、代金を支払うべく現金…ではなく電子マネーカードを取り出して提示する。レジに居るお兄さんが予約票を受け取ってチェックして確認を取り、電子マネーカードをレジに通す。追加でポイントカードの提示を催促されるけど持ってないし余り来ることが無いから要らないし、何より今すぐここから退散したい!…そこでわたしは


「ポイントカードは要らないです! 有難う御座いました!!」


というと、慌てながら電子マネーカードを財布にしまい商品を入れた大きい紙袋を受け取ってダッシュでお店を飛び出した。その際、誰にもぶつからなかった自分を褒めてやりたいけど余り褒めた態度じゃなかったよねと後で反省した。反省するだけなら猿でもできるけど…反省!



- ASYURAとASO、起動! -


事故にも事件にも遭遇しないで無事に帰宅完了!…念の為、玄関の鍵を掛けた後、キッチンで手洗いとうがいを済ませてから自室へと向かう。


うちの親は現在旅行中で、出掛ける時に口を酸っぱくして「戸締り、火の元はちゃんとしなさいね?」といわれている。信用が無いのか、延々と理由を並べ立てて1時間も…そんなだから、飛行機の出発時間ギリギリになるんだよ…とはいえ、30分以上前には空港に到着したみたいだけど。どんな裏道を駆使すればそんなチートができるんだか…。


「ふぅ~…やっぱ一人っ子だと心配なのかな?…うちのマンション、セキュリティはしっかりしてるから大丈夫だと思うんだけどなぁ…」


鍵の掛け忘れをしても5分程で自動でロックが掛かるし鍵を部屋に置いたまま追い出されても管理人にいえば開けてくれる。一応、住人認証で虹彩認識と指静脈認証のチェックとかするんだけど。まぁ、わたしは顔認識だけでフリーパスだから有って無きが如きなセキュリティなんだけど…いいのか?これで…と、思わなくもない今日この頃です、はい。


ガスコンロとかも、全部IHクッキングヒーターになっちゃったんで調理の際には火を使わなくなった。万一、燃え易い物がIHクッキングヒーターに触れて加熱されても検知器ですぐ電気が止まるし、燃えてたら水蒸気を噴霧して弱い火の内に消し止められる。


「ま、それでも完全に安全じゃないから、心配していってくれてるんだもんね…」


はぁと溜め息を吐くけど、感謝は忘れないようにしないとな。



ちなみに、温かいココアを飲もうかなって用意をしてたら、既にIHクッキングヒーターが温めるのに適温になってた時には流石にひいたっけ…今?…うん、もう慣れた。人間って凄いね。人間は慣れる生き物だってどっかで聞いた気がするけど。


そういや、友達が…失礼な!…わたしにも友達の1人や2人居ます!…ぜいぜい…で、その友達がいうには「このマンションのハウスシステムは何ていうか変」ということらしい。簡単にいうと、使う人が楽というか生活するのに最適化され過ぎているというか…


曰く、「トイレに行こうとすると、ドアが既に開かれていて(中に人が居ない時に限る)便座が快適な温度に保たれている」 ※うちは節電する為に通常は便座は冷えてます


曰く、「飲み物を取りに行くと、冷蔵庫のドアが勝手に開く」 ※流石に見えてない内から開くのは中身の保冷の都合上問題と見てるのか、直前に開くことにしたらしい…ホラーハウスかっての!


曰く、「帰宅する時には玄関のドアが自動ドア状態。外のオートロックに至っては離れる時に「お気をつけてお帰り下さい。千夏ちなつお嬢さまと仲良くして戴き、誠に有難う御座います」っていわれた。帰路でもある時を境に不審者に後をつけられるということが一切無くなった」 ※普通にどの部屋のドアも自動で閉まります。お、お嬢さま!?…恥ずかしいので以後はいうなって釘を刺しといた。不審者って…ここの管理システムってどこまで影響力あるんだか…気になって訊いたらここのマンションだけじゃなく、区画一体の管理をしているシステムのAIで、本体は別のビルにいるとか…ってをい! 責任者出せ! 聞かなくてもいいこと聞いちゃったんですけど!?…ぜいぜい


ま、まぁそんな訳で、「わたしの住んでるマンションより住み易くて羨ましい」ということらしい。カスタマイズすれば同じくらいにはできると思うよ、とアドバイスはしといたけどね…。



「さてさて、ではまず開封をば…」


自室へ入ってから防寒着とマフラーを脱いで壁に掛け、床に置いてある本日のお宝を取り出す。


尚、外との気温差を検知したハウスシステムが自動で暖房を付けて最適な温度・湿度に保ってくれているので暖房に関しては意識することは無い。勿論夏になれば適度な冷房に。お母さんは冷え性気味なのでその部屋だけは冷房じゃなくて除湿で対処と、少々苦戦してるみたい。除湿しても冷え過ぎると文句をいわれてるみたいだからね。


他には、個人のデータ…例えば花粉症とか入力していれば、過剰なまでに細かい粒子をエアフィルターで綺麗にしてくれる。お母さんの好みは多岐に渡り過ぎて既存の選択肢には当てはまらないと、何故かシステムを管理するAIに泣き付かれたことも。ええい!…わたしにどうしろと!?…いや、お母さんの性格とか説明して、多少なりともオートで対処できることとかマニュアルで微調整しなきゃいけないこととか…これって、本人から聞き取ってやることだよね?…いや、もうやっちまったことだし今更文句いってもしょうがないんだけど。


(代わりに色々と便宜を図って貰ってるけど)


例えば、一番外のオートロックの監視カメラで本人認識するや、そのまま通過できるタイミングで扉が開け閉めされる。例え、後ろに誰かが居ても、背中が離れる絶妙なタイミングで閉まる。一度、下の階の住人のお姉さんがこれ幸いと便乗して扉を抜けようとして鼻の頭を挟まれちゃって大騒ぎになったっけ…。一応、扉の横にあるセンサーにカードキーをかざして認証されないといけないし、認証を受けた人と本人が申告した人数と顔認証を受け付けた人(友人を招く場合があるからその時の例外処理)だけを通すって訳だ。認証もしないで通り抜けることは、例え住人であっても不可能。


(これって本気で感謝されてるんだろうな…。規則を曲げてでも、だし)


他にも、何か助言したり提案したりする度に便宜を図って貰えることが増えてるんだけど…流石に影響が大き過ぎる内容なんかは辞退した。何かって?…機密事項に抵触するので喋れません!…って思って貰えればわかると思う。何で一小市民のわたしにこんなことを教えるかな…。



「あ、そうだ。飲み物も持って来ておこうかな…」


ダイニングへ移動し、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。中身はミネラルウォーターだけど。


「あ、これも持ってっておこう」


コンビニで買ってストックしてあるプルーンヨーグルトと、小さめのスプーンを1つ。いつもヨ-グルトを食べる時に使ってる奴だ。


尚、わたしの小遣いで賄っていたミネラルウォーターとヨーグルトは、何故か勝手に購入されて冷蔵庫に小量だけど備蓄されている。例のアドバイスのお礼ってことらしいんだけど、「家計が助かるわね♪」と、お母さんは頓着してなかった。他の食糧も買ってくれればいいのにとか思ってそうだけどね。



「よし、準備おっけー」


もう忘れ物はないよね?…と確認してから自室へと戻る。また忘れ物をして戻って来るのもバカらしいしね。



「ふう。では、お宝御開帳!」


(中略)


というか、説明書は読んだんだけど小難しくて…難しい専門用語が多過ぎる! これ、ゲームで遊びたいだけの一般人向けじゃないでしょ!?…うん。理解は諦めました。わかったのは、


●フルダイブする時は使用時間を決めて長時間の使用は控えること

●(略)は、部屋の環境を整えること。特に室温・湿度などは注意

●(略)は、体調を整えること。不調の時は使用を控えること

 ・

 ・


などと、フルダイブする時の注意事項が延々と…。いや、中で遊んでる時は身体が無防備になるからわかるんだけど、ね…。ちなみにASOで遊ぶ時間は最大8時間までって制限されてるって書かれてた。4時間経過で1回目の警告があり、6時間で2回目。8時間の数分前に最終警告があって、ログアウト処理をされて強制除装して8時間経過しないとログインできない仕様みたい。


(やっぱし脳みそに負担が掛かるんだろうなぁ…それ以前に普通にプレイしてても8時間って長過ぎるかな?)


ちなみに「発売日」って謎は説明書ではなく、一緒に同梱していたチラシを見て判明した。どうやら、色々な不具合を解消してユーザーからの声や要望を取り入れて外見のデザインを変更したからマイナーチェンジ版として、新・発・売・!…ということらしい。初期ロットはやっぱし不具合が有るんだなぁ…って、しみぢみ思っちゃった。


「あ~、何か読んでたら気が滅入って来たなぁ…フルダイブは止めとこうかな?」


とすると、気になるのはASO。フルダイブしか対応してなかったら遊べないかも知れない。最悪、短時間だけちょこちょこ遊ぶしかないんだけど、それじゃ慣れないし詰まんない。


「えーっと、説明書はぁ~っと…あったあった」


今時珍しい紙媒体の説明書だ。一応、ASYURAを使って読むメモリーカード媒体の説明書もあるけどね。まだセットアップしてないから読むことはできないけど。


「ふむふむ…おお、フルダイブ以外でも遊べるんだぁ~」


説明書は薄めの紙媒体なので、それ程多くは書かれてないけど簡単な遊び方などが書かれていた。



- ASOの遊び方 -


ASYURAに対応する初のVRMMORPGです。

ASOは次のモードに対応しています。


・フルダイブモード…身体感覚を遮断し、仮想現実世界に入り込んでプレイするモードです。VRモードともいいます

・ハーフモード…お持ちのPCなどに接続し、一部の操作はPCを介して行います。フルダイブと違い、VR機器適性の無い方でもご利用できます

・マニュアルモード…殆どの操作はPCを介して行います。既存のPCゲームと同様の遊び方となりますが、一部機能のみASYURAを介して行えます ※こちらも適性の無い方でもご利用できます


「…ふむふむ。下2つはフルダイブでプレイすると酔っちゃう人向きかな?…フルダイブすると現実と同じ視点だから、PCゲームに慣れてると思った通りにプレイできないって記事に書かれてたっけ」


ペラペラとページをまくり、大体肝心なことは読み終わった。後は、実際にゲームソフトを起動して詳細な説明を斜め読みでいいから読んでおいた方がいいだろうなと判断する。


「…あれ? 説明書と思ったけど、ゲームソフトと同じメモリーカードなんだ。これならゲーム中でもヘルプ機能として使えそうだなぁ」


実際、ゲーム中に説明書を引っ張り出して読むというのは興が削げるし、フルダイブゲームだといちいちログアウトして差し替えてと面倒過ぎる。VRMMOだから容量を圧迫して別々かなと思ったけど、これは良い誤算だった。


「さて、わたしのPCに接続しなきゃね…フルダイブは面倒臭そうだし…」


一度設置したら覗かないPCの背後を見て、うんざりしつつもASYURAから伸びるケーブルを苦労して取り付ける。ついでに背後に溜まってたホコリも掃除するのを忘れない。


「思ったよりホコリ、溜まってたんだね…。こんな所が原因で火事が起こったら、うちの親なら死後の世界まで説教しに来そうだし…これでよしっと」


吸引力を誇る軽量掃除機(バッテリーで稼働するのでワイヤレスなのも誇ってたっけ…ちなみに2時間くらい持ちます)でホコリを吸いまくり、ついでに壁や天井。部屋の隅っこも掃除しておいた。


「自動掃除機ロボットくんだと、部屋の隅っこまで掃除してくんないんだよね…何か居る・・のかなぁ…」


そこ以外は普通にうぃんうぃんいいながらホコリを吸い取ってくれるんだけど、巡回して接近すると、何故か嫌がってターンして戻ってくるっていう…怖いんですけど!


「はぁ…疲れた。余計なことじゃないけど、帰宅して早速プレイしてる人が居るってのに出遅れまくってるよぉ~…」


掃除道具をとっとと片付け、使う物以外(袋とか梱包材とか)を部屋の隅に手提げ袋にまとめて突っ込んで置く。


「えーっと…ネットとPCへの接続よし! ゲーム機よし! ASOのゲームカートリッジ…あ、まだ挿して無かった…よし!」


メモリカードじゃなくてゲームカートリッジって名称らしいので取り敢えず倣っておく。ま、本人がわかってればどうでもいいと思うんだけど、ゲームの中でその会話になって間違えてたら恥かいちゃうかもだし。


PCの電源はとうに入れてあり、後はASYURAの電源を入れて、色々セットアップして、ASOを起動して…ゲームなのに、事前にやることが多いなぁ、もう!


昔のゲームはもっと簡単だったって聞く。携帯ゲームなら電源入れるだけで遊べたとか、据え置きゲームでも…って、そりゃ古過ぎる奴だっけ。レトロゲームとか何とか。今と違って、ブラウン管ってガラスでできたテレビに繋いでって書いてたし…ブラウン管って何だろ?


「お、起動ロゴが出た…これ、毎回見ないといけないのかな…」


やや幼い子供の声で、「あ~しゅらぁ~」といってからひらがなのロゴが変形、ASYURAの文字になり、消える。どこぞの「せぇ~●ぁ~」っていい年した男性が叫ぶゲーム機を彷彿させる。


(それもかなり古いけどね…実はお父さんの書斎にこっそり置いてあるのを見たことあるけど…ぷぷ)


続いて、ASOのロゴが出てタイトル文字がアニメーションで浮かび上がる。こちらは特にロゴを叫ぶこともなく、今はモードの選択のまま一時停止している。静かに綺麗なBGMが流れてるのが印象的だ。


「フルダイブしてれば問答無用だから選択肢は無いんだろうな。取り敢えず、マニュアルモードっと…」


付属しているハーフとマニュアルモード向けのゲームパッドを使って十字キーで選択、決定ボタンを押す。


「ゲームパッドの仕様はP駅とX箱のどちらかを選べるのは助かるよね。わたしはどちらかといえばコントローラはX箱のが使い易いし…」


キャラを移動しながら表示したメニューを十字キーで選択ってやってると、P駅仕様では左アナログスティックに手がぶつかって操作し辛い。X箱では自然に操作できるのでできればそちらを使いたいのだけど…。


「高いんだよね…X箱仕様のコントローラって…」


その点、ASYURA付属の物は差し替えで左アナログスティックと左十字キーの位置を差し替えることが可能だった。この点だけとっても、ユーザーのことを考えてくれていてとても助かる。使い心地は使ってみないとわからないのだけど…。


「ま、使ってみて、気に入らなかったらサードパーティから出るのを待つしかないかな…あ、次のページが出た」


マニュアルモードを選択し、設定が終わったのか次の画面が表示される。


「えーっと…ハーフ・マニュアルモードでプレイ開始しても、いつでもフルダイブモードで遊べます…か。ふんふん…」


ゲームを遊ぶ前にする注意と簡単な説明。多分、他のモードでもするであろう内容が音声付の字幕(音はヘルメット内蔵のスピーカーから流れてるけどヘッドフォンに最適な音量なので余り聞こえない)で流れて、キャラ作成をするか、更なる説明をするか聞いて来た。ナビゲーションAIとかは居ないのかな?


「ん~…先ずは遊びたいかな?…キャラ作成を選択っと」


キャラ作成画面へ移行。フルダイブしてれば色々と身体のデータを取ったり、ゲーム内で喋る声もサンプリングするんだろうけど…。


「声だけサンプリングしたいから、ヘルメットを被ってマイクに向かって喋れと…う~ん…、別に文字会話だけでもいい気がするんだけどなぁ」


身元バレしたくないし、わたしがVRゲームで遊んでることも知り合いに余り知られたくないのもある。…と呟いていると、


〈あのぉ~…〉


「うわびっくりしたっ! 何々? どこから声が!?」


びゅんびゅんと頭を振り回して声の出元を探すわたし。確かに玄関はロック掛けたし人が侵入する隙間は無い筈!


〈ここです。ASYURAの内蔵スピーカーから失礼しています〉


声の出元はハーフやマニュアルモードで使用するスピーカーからの声みたい(フルダイブでは脳で直接聞くので使わない模様)。被らないで横に放置してるのでヘッドフォン出力程度だと囁く程度の音量で余り聞こえない筈なんだけど、普通に会話してるくらいの声が聞こえてくる…というか、誰!?


〈サンプリングした声はご本人とわからないように変調して話せますし、ご希望でしたらアクセントや話す癖も微調整したりもできます…若干のラグはありますけど。文字のみのコミュニケーションですと色々と不都合が有りますよ?…戦闘中ではログの文字を読む余裕は無いと思いますし〉


確かに、既存のゲームで吹き出しの文字台詞は慌ててたり戦闘中にはスルーされることが多いな…と、過去のネトゲでは実感している。


(だけど、ボイスチャットでも目紛るしく状況が変わる戦闘中では聞き取れなかったりするし!…、スルーされるし!…、夜中に叫ぶと親に怒られるし!!………)


などと心の中で叫んでると、長い沈黙に耐えられなかったのかヘルメットの中の小人さんが折れて、


〈…わかりました。ではこうしましょう。ASYURAは脳内の思考を読み取って発声させることも可能です。これは身体障碍者向けで発声が困難、若しくは声帯除去をされていて発声ができない人が利用する機能です。その機能を使えば、ゲーム内で「創られた声」で会話することも可能です。勿論、夜中に叫んでも、ご両親には聞こえないと思いますよ?〉


何それ、ASYURAって医療向けの機能まであるの!?…というか、この小人さんはわたしの心の声が聞こえてるの!? わたしは恥ずかしくなって縮こまるけど、


(別にこの小人さんは人間じゃないし、プログラムだし…)


と思い直して姿勢を正す。


〈どうされますか?…勿論、最初は文字チャットだけで済まして、後で気が向いたら…でも構いませんが〉


それもいいかな?…と思ったけど、


(脳内会話ができれば手の負担も減るしなぁ…)


と思い始める。ネトゲでキーボードやマウスを酷使した自分の手や腕は若い癖にちょっとぷるぷるし始めてるし…。クラスの人にそれがバレて、「どこのゲームジャンキーだよ?」と大笑いされ、それからはリアルで知り合いの居るネトゲには近寄らないことにしている。だって恥ずかしいし、ゲームの中でもバカにされそうだし、ゲームの中で辛い思いはしたくないし…。


(…ま、自分の招いた結果だけど。両親にも内緒にしてるからお医者さんにもかかれないのがなぁ…)


早めに治療すれば軽度で済むかも知れないけど、そうすればきっとうちの親はPCを取り上げるに違い無いし。


(VR機器ならキーボードもマウスも無いから…でも、ゲームにのめり込んでれば同じかぁ~…はぁ)


と、このまま落ち込んでいてもしょうがないと小人さんのお勧めの通りにするべく、各種設定をいわれるがままにこなしてキャラメイクを終えるのでした。


容姿とか声?…勿論、小柄でセミロングで可愛い女の子で、声は現実では有り得ない程に甘く可愛らしいアニメ声で決めました。現実のわたし?…どーせ可愛くない長身のショートカットですよ。悪い?



- 初ログイン! -


普通、目を瞑って出現箇所に全身が現れてから目を開ける…なんてシーンをよく見るけど、わたしはずぅ~っと目を開いてそのようを凝視してました。いや、上から下に風景が移り変わるだけで別に珍しくも無かったですけどね。その程度はアニメでよく見ますし…。ましてや、PC画面の映像だと3人称視点なので目を瞑る意味も無いというのもあったり。


「はぁ~、ここがログインして初めて訪れる町かぁ。というか規模的に街かな?」


そこは結構大き目の広場で、転移して来る人が間隔を開けて出現しては目的地へと足を運んでいた。NPCと思われるお姉さんが、


「ようこそ、始まりの街へ!」


と語りかけて来る。ちなみに音声と吹き出しの文字の両方が見えている。設定次第ではどちらかにできるんだけど。


小人さん…自己紹介で「ナビゲーター」っていってたっけ。まぁわたしは長いから「ナビ」さんって呼んだけど。フルダイブすれば脳に直接信号のやりとりをするから健常者と同様に会話したり見て聴いてができるけどハーフ・マニュアルモードだと無理だとかで、吹き出し文字表示モードもあると…。それってフルダイブに適性が無い人向けなんだろうな…開発者は大変だわ。


「ま、PCで遊んでる感覚のわたしとしてはどーでもいっか…」


左上にあるミニマップを見ながらてくてくと歩き始める。キャラメイクしてる間にナビさんに質問してこのゲームの遊び方とお勧めなんかを訊き出しておいたんだ。まさに生きる説明書みたいでとっても楽ちんだった!


後、ゲーム中は基本的にAギア(ナビさんが教えてくれたんだけど、ASYURA・GEAR…アシュラ・ギアの略称です)は被っておいた方がいいとか。マニュアルモードでも迅速に各種情報を知らせて貰えるし、ある程度思考波での操作もできるから、「考えただけで歩いたり何かする」ってことも可能だとか。


(便利過ぎる…半自動で戦闘とか作業ができそうだし!)


まぁ、便利な使い方はおいおい見つけるとして、まずは冒険者登録かな?…今のままでは初期設定の「村人」のまんまでそのままレベル上げはできるんだけど、カンストしても駆け出し冒険者や駆け出し剣士よりちょっと強いって程度だっていってたし…。適性次第ではそうでもないらしいけどね。


「適性があれば、師事する先生を探して魔術師とか鍛冶師とかになれるらしいけど…」


残念ながらわたしのキャラは村人レベル…というか村人そのもの。つまり、一般人と何ら変わりなく冒険者登録をして「駆け出し冒険者」になってコツコツと鍛えて行くのが強くなる近道らしい。後、少しだけど魔術に関する特性が高いので魔術師にひょっとしたらなれるかも?…ということみたい。専門用語でいうと、傾向「魔法使い」らしい。


魔術師の先生に師事しようとしたらかなりの金額を詰むか紹介が無いと無理みたいなので、さっきスタートを切ったばかりのわたしにはそちらは無理。所持金は冒険者登録して少しの装備品を揃えただけですっからかんになるそうだし…。


それはさておき、村人スタートだけど、「アン」のASO人生の始まりだよ!!


「…」


手を挙げて心の中で叫んだ所で何が変わるという訳でもなく、周りの人たちにくすくすと笑われたのでダッシュでその場から逃げ出しました…うぅ、恥ずかしい。



- 冒険者ギルド -


「う~ん…取り敢えず、冒険者登録する所ってどこだろ…」


きょろきょろとそれらしい建物を探していると、盾の前に剣と杖が交差してる看板を発見する。


「あれかな?…ナビさんのいうことに間違いがなければ、だけど」


ちなみに、まだ思考制御に不慣れなのでゲームパッドを使ってキャラを操作してる。PCの画面にはやや後方上から見下ろした3人称視点のゲーム画面。声と首より上の制御は思考制御(というか、普通にそう思っただけでキャラが動いたり喋ってくれる)でひょこひょこ動いている。


AギアのバイザーにはPCの画面が見えるように半透明にキャラの1人称視点が表示されている。こちら(1人称視点)をよく見たい時は凝視するかそう思うだけで透過効果が解除されて普通に見えるようになる。


冒険者ギルドの建物(さっき、通りがかった人が親切に教えてくれた)に早速入る。ラノベなんかでは入った瞬間に「ギロリ!」って睨みつけられて難癖付けられたり絡まれたりするけど、ここはゲームなので余りそんなことをする人は居ないみたい。まぁ、小さい子が入って来たのが気になるようで、ちらちら視線を寄越す人が何人かは居るようだけど…。


(ろりk…考えちゃだめだ!考えちゃだめだ!考えちゃだめだ!)


そういう人種とはお近づきになりたくないので全力でスルーして受付カウンターへ向かう。そこには数人のNPCスタッフが居て、好みの窓口へ並べといわんばかりで美男美女と…中には平凡な容姿のNPCも居るけど。きっと自身の容姿に自信が無い人向きなんだろうな。もしかすると、気軽に受け付けして貰たい人向けかも知れないけど…。


「う…どれも大勢並んでるなぁ…」


新規登録専用窓口とか有ればいいのに…などと思いつつ、一番人数が少ない列へと並んでみる。すると、


「あ?…随分とちっこいのが並んでやがるな?…おら、ちょっとこっち来い!」


と、大柄なおっさんが怒鳴りながらわたしの腕をひっ掴んでずかずかと歩き出す。あれ~?…ここって圏内(ダメージを受けることの無い安全地帯で、他人から腕を掴まれて引き摺られる…という行為も無効化する)じゃなかったっけ?…ってことはこの人はNPC?


フルダイブしてたら急に腕を掴まれて不快感を感じたかも知れないけど、わたしはマニュアルモードでプレイ中。装着してるAギアからのフィードバック…痛覚や触覚などは最低限でこの程度の力では触られていることもいわれないとわからない。代わりに味覚や嗅覚は半分程度は感じられるらしいけど今はそんなことは関係無い。


視覚と聴覚は自前のを使うので完全カット。スキルや魔法を使って小さい音を拾ったり視覚を強化して遠くを見る時もAギア内蔵のスピーカーを通して聴くか、PC画面に表示されるし。


「おめーはここで訓練でもしとけ。あぁ、ちょとあれ貸せ」


「あれ?」


といって頭を傾げると、おっさんが両手でカードの形を作ってから「あ、あれか!」と気付き、肩掛けの皮バッグから身分証を引っ張り出して渡す(トレードではなく手渡しで)。村を出た時に持たされた…という設定の、木の板に文字を彫って作ったとされる身分証だ。


「えっと、これ?」


「あぁ、それだ。代わりに冒険者証を取って来てやる」


ぶっきらぼうにそういったおっさんは木彫りの身分証を受け取ると、ずんずんと歩き出した。


ちなみに、こういった細かい動きなどは頭で考えて身体を動かすことで実現してるみたい。流石にバッグからアイテムを取り出して相手に渡す…なんてこと、ゲームパッドじゃ無理。マウスを使えばできなくもないと思うけど説明にはそんなこと書いてなかったし、選択肢も出なかったし。アイテムを探して手に取るといった流れは自動だったけどね。


「う~ん…なんていうか、あの人って初心者サポートNPCって奴かな?」


リアルであれだけの行列を待つのも無駄な時間だし、まぁいっかと連れて来られた場所を観察する。


「…3人称視点だとわかるけど、まさしく訓練場だねここ。遠くで剣振ったり魔法を放ったりしてる人が居る。いいなぁ…わたしも早くなんかしてみたい!」


流石に延々と走ってるだけってのは御免被るけど。体力作りにきたんじゃなくて、冒険しに来たんだし…。あ、あそこでランニングさせられてる人がいる…プレイヤーじゃなくてNPCだったらいいんだけどな…。プレイヤーでも走らないといけないとか拷問ものだし…。


「ん~…訓練っていってもなぁ…。こぉんな華奢な身体で何をしろと…って、冒険しに来たから鍛えないといけないのかな?」


キャラメイクの時、見た目は弱そうでもステータスや特性次第では巨漢の筋肉ムキムキのマッチョにすら勝てるので見た目で判断しない方がいいって聞いたけど。う~ん…


「そういや魔術師特性がちょっとだけ高いっていってたっけ…。どうやって魔法とか魔術とか使えるのか知らないけど…」


魔法をぶっ放してる人たちが居るけど、ちょっと見学させて貰おうかなと思って近くに行ってみることにした。ひょっとしたら、魔法や魔術を使うコツとか聞けるかも?



- アン、魔法や魔術を(こっそりと)学ぶ -


「こらこら、部外者は近寄っちゃダメだよ?」


NPCの魔術師の先生っぽい人が接近中のわたしに話し掛けて来る。そーいや、思いっきり村人が着る粗い布の服とくたびれた簡素な皮の靴だからどう見ても冒険者には見えないよねぇ…。そうたしなめられてもめげずに、


「えっと、見学だけでもさせて下さい。邪魔はしませんから!」


と、頭を下げてお願いしてみた。


「い~んじゃないですか? 別にここでの指導だって金を取ってやってる訳じゃないんでしょう?」


と、お弟子さんぽい人がいってくれる。この人はプレイヤーなのかな?


「しかしだな…」


先生が渋るけど、弟子の人が「何かあったら責任持ちますから」といって貰えてようやく見学が許可される。取り敢えず、空いてるベンチに座って見学を開始した。


(PC画面の3人称視点でも見学の効果ってあるんだろうか…?)


3人称視点だと、ただ魔法を放っているエフェクトを見てるに過ぎず、魔法の素養が殆ど無いわたしのキャラには意味が無いように思えてしょうがなかった。リアルのわたしにも、そんなもん無いし。


(一応1人称視点に切り替えられるみたいだし、試しにやってみるかな?)


そう思った途端にバイザーの1人称視点が強調される。というか、透過効果が切れてPC画面が見えなくなり1人称視点のみとなる。すると、3人称視点ではわからなかった様々な変化が見えて来た。


「あ…これが魔法、なのかな? 何か見えた気がする…」


弟子の人の身体の中にモヤみたいな物が現れ、魔法を撃とうとすると発導体…この人の場合は杖だ…に伝わって行き、最後に1箇所に集中して標的へと放たれて行く。


モヤが魔力、若しくはマナって奴で、集中するか呪文を唱えると発導体に移動して圧縮され、魔法発現のキーワードと共に目標に向けて発射。今見ていたのはファイヤーボールかな? ファイヤーボルトにしては威力が高かったし。


…と、ぶつぶつと呟いてると、隣で指導をしていた先生が何やらぷるぷると震えていた。その若さでパーキンソン病なのかな?って、ここはゲームの中だから有り得ないか。取り敢えず1人称視点を解除する。PC画面が見えないと、ちょっと移動に苦労しそうだし。


「…有り得ない。ただの村人の子供が…絶対有り得ない…」


(…何か失礼なことをいわれてる気がするけど…まぁいいや。魔法を使うヒントは得たし、後は実践かな?)


わたしはこのゲームで魔法を使うヒントを得て機嫌よくベンチから立ち上がり、


「とっても勉強になりました。どうもありがとうございます!」


と、お礼をいって頭を下げてその場を後にした。


「あれ? もういいの?」


と、お弟子さんがいっていたけど、先生が「あれには関わるな!」とか失礼なことを怒鳴っていた。わたし、何かしたんだろうか?…ただ、魔法の練習を見てただけだよねぇ?…解せない。


━━━━━━━━━━━━━━━

ヒロイン、1回見学しただけで魔法の極意その1を会得します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る