Day.20 祭りのあと
『祭りのあと』というのはえてして寂しいもの、もの悲しく切ない感情を呼び起こすものだが、カミノの心に火がついたのは星の宴が明かりを落としたあとのことだった。
明けの空にとどまる星がひとつふたつ、曙光はまずカミノの頬を照らし、淡い黄金色に染め上げたあと肩先に火花を散らした。
えりあし(パチン)、あごの先(パチン)、こめかみ(パチン)、眉間(パチン)……
次々と弾けた火花は流れる血とともに身体をめぐり、やがて身体いっぱいに暴れはじめた。たそがれの国の働き者たち、シャンデリアの輝きと、命のありさまを変えてともに生きることを選んだハルトたちのこと、レイヤが拵えた装具の数々、ルミナの思いつめた横顔、さらにはベーカリーで得た縁やカミノ自身の腹の底に溜まっていた鬱憤までが、激しい瞬きに叩き起こされて次々と流れに乗っかった。ぶつかりあい、まじりあい、連鎖反応を起こして次第にある形に凝っていく。寝静まりつつある朝のなかで、ふたつめの太陽のように燦々と輝き出す。
それはカミノがはじめてはっきりと捉えた、自身の意志のかたちであった。
この光が照らすのはカミノひとりだけではないだろう。確信に近い予感があった。使命感と言ってもいい。ぽつりぽつりと灯る篝火のすべてを見渡すことができるのはカミノだけ。拾い集めて束にして、大きく大きく育てるのだ。たくさんの助けが要る。でも、拾い集めるのだけはカミノの役割。
そうと決まれば、もとの暮らしとの決着をつけるところから。心に決めてしまうとかえって気持ちが落ち着くもので、それから数日のあいだ、心置きなく休暇を満喫することができた。住民たちと一緒になって収穫に奔走し、落ち葉の海に身を投げ、不思議な食べ物をおっかなびっくり口にしているうちに、生まれた火花はすっかり身体になじんでしまった。
ちょっとやそっとでは揺らがぬ意志はこうして出来上がった。いよいよ刻限がやってきたとき、ルリアスの水鏡はカミノの炎をひたりと受け止め、元の世界にそっと送り返したのだった。
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