Day.17 流星群
夢を見た。
学生時代の仲間と海に来ている。青い空、白い砂浜、大きく手を広げた葉の緑は濃く、赤や黄の花弁は肉厚で力強い。冬の気候に慣れた身体に日差しの強さが堪えて、カミノは木陰で休んでいる。同じクラスの女の子たちははぐれ者のカミノにも声をかけるのを忘れない。だからこうして、卒業旅行にも誘ってくれたのだ。
波打ち際ではしゃぐ彼女たちは、サマードレスにビキニにパレオと見るからに華やかで、日陰から見ているといっそう眩しく映る。薄い肩、細い首、みんな小柄で可愛らしい。大柄なカミノは比べるのがこわくて、アロハシャツにショートパンツの装い。プルメリアとハミングバードの図案に一目惚れして現地で買ったものだ。同じ柄のワンピースもあったが、まずシャツを手にとったカミノを友人たちは口々に褒めそやした。
「遊ばないんですか」
そういえばルミナも一緒なんだった。彼女はカミノが答える前に隣に腰掛ける。その腕にはワンピースが掛かっている。フォレストグリーンにチュールを重ねた、カミノのお気に入り。
「初めてお見かけしたときから、すてきだなあと思ってたんです。色合いも形も、見立てはバッチリですので。きっとお似合いになりますよ」
そうかなあ、そうだといいなあ。でもこの色、ちょっと季節にはずれてやしないかしら。
強い光が瞼を灼く。身じろぎしたとたん踵のあたりがじゃりっとして、気づけば粉々のショートブレッドまみれになっていた。
「いいかげん起きな、夜だよ」
アルコーブのなかを煌々と照らすレイヤのランタン。壁に寄りかかったまま寝たせいで、カミノの背中はぎしりと鳴った。ルミナはちゃっかり毛布をかぶって丸くなっている。
うたたね寸前、大真面目に「歯磨きしなきゃ」と立ち上がりかけた彼女を止めたところまでは覚えていて、「ちょっと寝るくらいなら大丈夫」とかなんとか言った気がするが、ちっとも「ちょっと」じゃなかった。悪いことをしたと思う。
「ルミナ、あんたも急いで起きるんだよ。星が流れはじめている」
その言葉にヘーゼルの瞳が目覚めた。
「おきなきゃ」
「そうだよ」
絡まった髪に手ぐしを通す。寝ぼけまなこの舌足らず、しかしつづくルミナの発言はいささか物騒だった。
「カミノ、行きましょう。狩りの時間です」
「えっ」
レイヤが用意した外套を羽織っておもてに出ると、月は山の端からのぼったばかり、麓には住まいを示す明かりがまばらに息づいていた。夜空の藍は冷え込みに濃く艶めき、そこを鋭く冴えた光がつうっと横切っていく。
「きましたね、流星群です」
低く抑えたルミナの声に、静かな闘志がこもっているのがわかった。
流れる星は天からの贈り物、〈天の火〉は精霊にとって万能の、そして貴重な資源だ。冬の訪れを前にして、できるだけたくさん確保しようと誰もが躍起になっている。闇に慣れた目に、小さな影が右往左往するさまが見て取れた。
「さあ、乗りな。ちょっと働いてもらうよ」
レイヤが指し示したのは東洋風のドラゴンのはりぼてだ。カミノはあのときのツバメを思い出してゾッとしたが、こちらは速度を落としたぶん操縦性が上がっているらしい。ルミナ、レイヤ、カミノの順にまたがると、紙と木でできた龍は風を取り込んでふわりと舞い上がった。
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