小燕ちゃんと董白ちゃん~おまけという名の二章予告

 ここは、冥府の入り口。朱塗りの巨大な門がででぇ~んとそびえている。


 その門の前で、小燕はほうきを手に持ってボーっと突っ立っていた。


「はれれ? さっきまで旦那様と一緒にいたような……。あっ、朝になったから冥界に戻って来たんだ」


「あなたが小燕ちゃんですね」


 急に声をかけられ、驚いた小燕は後ろを振り向く。そこにいたのは、外見が十代前半ぐらいの美少女だった。彼女も箒を持っている。


「あの……あなたは……?」


「私は董白とうはくと申します。気軽に董白ちゃんと呼んでもらって構いません。今日から一緒にこの門を掃き清める職場の同僚なんですから」


「職場の同僚……えっ! 私たちって、死んだ後も労働しなきゃいけないんですか⁉」


「モチのロンです。我々死人は、冥府で何らかの仕事を与えられます。前世の行いが悪い人間は数年から数十年の間は超重労働を強いられ、たとえその期間が終わっても、仕事ができなきゃキツイ職場にまわされます。給料の多い少ないで貧富の差もありますし、泰山府君たいざんふくん(冥府の神)に嫌われたら永遠に窓際族まどぎわぞくなので気を付けましょう」


「死後の世界にも貧富の差があるなんて嫌すぎる……」


「あなたはまだいいほうですよ。生前の主人に対する献身が評価されて、『冥府の正門のお掃除係』という名誉ある仕事を最初からもらえたのですから。私なんて、政争に巻き込まれて死んでから十五年の間、か弱い美少女の身でどぶさらいをずっとやっていたんですからね。……クッ。祖父が暴虐非道の大魔王、董卓とうたくだったばかりにとんだ巻き添えを喰らっちまったぜコンチクショウ」


 お嬢様口調で喋っていた董白が、急に顔を邪悪に歪ませながら野郎言葉を遣い、親指の爪をギリリと噛んだ。ビビった小燕は「と……董白ちゃん……?」と声を震わせる。


「あの……何だかよく分かりませんが、元気を出してください。こうして名誉ある(?)正門のお掃除係に任命されたということは、董白ちゃんの真面目な仕事ぶりが泰山府君に認められたということですよね? もっといいお仕事につけるように、これから一緒にがんばりましょう!」


「小燕ちゃん……。あなたって、本当にいい子ですね……」


 董白は涙ぐみ、小燕の手をそっと握る。小燕は照れて顔を赤らめ、「えへへ~。旦那様にもよく言われますぅ~」と言った。


「あっ。そういえば、小燕ちゃん。冥府の台所を勝手に使ったそうですね。いけませんよ。『役所内の台所を私的に使うのには事前の申請が必要で、使った材料費は給料から天引く』という就業規則がありますので、次からは気を付けてくださいね」


「き、給料から天引き……。分かりました……」


 旦那様に美味しいスープを毎晩お届けするためにも冥府で出世しなきゃ……。

 あの世でボーっと過ごすつもりだった小燕に、大いなる目標ができた瞬間であった。ここから彼女の冥界サクセス・ストーリーが始まるのだが、それはまた別の話である。


「ちなみに、私たちには正門のお掃除以外にも、泰山府君から与えられた大事なお仕事があります」


「えっ、大事なお仕事? それは何ですか?」


「それがですね……次回予告をせよ、とのことです」


「次回予告?」


「はい、次回予告です」


「次回予告とは……いったい???」


「私も詳しいことはよく分かりません。とりあえず、渡されたこの木簡に記してある文章を一緒に読み上げればいいみたいです。……読み上げる際の注意が書いてありますね。『頭の血管が千切れるぐらいの勢いで。具体的には、アニメ北〇の拳の次回予告を手本に』」


「その、北〇の拳というのがよく分からないのですが……」


「とにかく叫べばいいんじゃないでしょうかね」


「なるほど! では、力いっぱい叫んで次回予告しましょう!」






            ~次回予告~


小燕「ついに曹家に仕官することになった司馬懿ッッッ!!! しかーし!!! 彼に待っていたのは、『当分官職をもらえないから無職から卒業できない』という非情な現実だったッッッ!!!」


董白「さらに、鬼畜将軍曹洪そうこうの悪行のせいで生まれてしまった巨大なモノノケが曹丕と司馬懿に襲いかかるッッッ!!!」


小燕「次回、『列異』!!!」


董白「二章『憂いのモノノケ』!!!」


小燕&董白「私たち幽鬼はもう死んでいる……ッ!!!」



ぶちっ

ぶちっ



小燕&董白「あっ……。頭の血管が……」


通りすがりの冥府の鬼「た、大変だ! 女の子二人が門で倒れているぞ! 医者を呼んでこーーーい!!!」

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