第6話
学校に着いて席に座ると、同じクラスの野間が話しかけてきた。
「よお和重、なんか嬉しそうな顔してるじゃないか。まったく、楽しそうでいいな、俺なんて宿題忘れたのにさっき気づいてもうブルーさ。限りなく透明に近いブルー。」
「それは災難だったな、シャブでも打ってラリれば楽になるぜ。」
「おっ、分かってるな、返しが。」
「村上龍なら親がちょっと小説に興味があれば知ってるよ。」
「言うねえ。まあ、芥川賞だもんな。」
「芥川賞ネタだけならなんとか通じる。それも先細りの気がするがな。」
「それは同意だ。でも、太宰治や三島由紀夫が出てくればとりあえず十分だろ。」
「違いない。それ以上は高校生には難し過ぎるよ。」
「そうさ、今は大オタク時代!見ろよ、図書委員のおすすめの本が全部ラノベだぜ。」
「ほんと、新時代だな。」
いきなり「文学トーク」的なものをしてしまって誰かに聞かれたら、うざい文学オタクが何か知った気になって語ってやがる、と言われそうだ。確かにこれは与太話だ。俺も野間も、ちょっと気取ってみたいと思って文学トークをしている部分はあるかもしれない。だけどその一方で本気な部分もある。俺の名前が和重(かずしげ)で、かつてロリコンについて書いた小説で芥川賞をとった小説家と同じ名前だから、せっかくなら文学に手を出したいね、という厄介な自意識で、そんなのは時代遅れと言われるかもしれない。けれど、興味を持ってしまったものは仕方がない。
「そういえば、「俺妹」読んだ?少し前のラノベだけどさ、最近ifルートっていうの?別の結末だったら…、って感じのやつが出てるからさ、読んでみたら、なかなか良かったぜ。」
ゴホゴホッ。むせる。
「いきなり妹もののラノベの名前を出すんじゃない。びっくりするだろ。だって妹と結構ガチで…って話だったろ?なんか生々しい。」
「そうか、和重は生々しいのは駄目か。まあ、普通に同級生の美少女と恋愛するラノベの方がいいって意見も分かるぜ。だけどさ、こういう妹との背徳感ってのも、アリだとは思わないか?」
弟の顔―今は美少女になって妹?なのだが―が頭に浮かぶ。今それを言わないでくれちょっとどきどきしちゃうだろうやめてくれよ。
「…ラノベの話に移るなら前振りを入れてくれ。上手く切り替えられん。」
「へへっ、すまん。気を付ける。」
ここで会話は中断した。チャイムが鳴って朝のホームルームが始まったのだった。
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