第3話

「ふえええ…。」

困惑して情けない声を出している弟に対して、何も言うことができていない。弟が妹になったことなんて、信じられない。

「何かの間違いじゃないか?」

ようやくかけることができた言葉も、どことなく棘が出てしまう。弟と話すのは久しぶりで、上手く距離感が掴めない。

「僕だって、分からないよ…。夜中、半分寝ながらトイレに行って、その後…。ベッドに戻ったらお兄ちゃんの気配があって…。部屋を間違えちゃったかなと思ったけれど、すごく眠かったからまあいいや、って感じで…。それで起きたら…。」

そんなことがあるのだろうか。とりあえず、どうして俺の隣で寝ていたのかは分かった。

「だけど性転換するって、いったい何が…。夢としか思えない。」

「それは僕だって思うよ…。」

「ああ、なんか見覚えがあると思ったら!パジャマがお前のやつなんだ!」

「うん、そうだね…。なんかサイズが合わない。体、ちっちゃくなっちゃった…。」

「なんか生々しいな…。」

徐々にぎこちなさが薄れていく。しばらく話していなかったのが嘘みたいだ。もっとも、弟が俺に話しかけようとする空気になったら避けていただけなのだが。

「なんかお兄ちゃん、楽しそう。」

「そうか?」

「声が弾んでるよー。」

弟とはいえ、美少女が近くにいるからだろうか。確かに、なんだか愉快な気分だ。

「おお、そうかもしれない。」

つい、いい気分になって、弟(妹?)の頭に手を伸ばして撫でてしまう。髪に少し手が触れた。艶があってさらさらしている。


パリン。


ガラスの割れる音。

振り返ると、手に持ったコップを落として割ってしまった母親の顔が。

顔が青ざめ、その後で紅潮していく。

「うちの子に限って、そんなことって…。」

不運にも、頭を撫でているところを見られた。いや、それは関係ない。朝、自分の息子の部屋に美少女がいて、平気な保護者はいないだろう。


どこから説明して良いのか分からず沈黙してしまった俺の隣で、弟(妹?)はにこにこ笑っていた。

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