chapter 2. 新京の風
まばらに車両から吐き出される民間人の群れを横目に、ミナトは
『ようこそ、新京
地上に上がってすぐの
ミナトは駅前の
「……人殺しにはお似合いか」
裁きを受けるかわりに送られたのが、海の果てに
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
「キミが
真紅の
「新京検察庁刑事局長の
ハキハキとした発音と淀みない早口を両立させた彼女は、ミナトが固まって
「いえ、決してそんなことは」
「いいよ、いいよ。
彼女が髪に風を含ませながらミナトに一歩近付いてくると、その腰に差した白鞘の
「陰陽の調和を司る
「……」
上官の長台詞にミナトは黙って頷きを返した。随分と自信家なのだな、と思わないでもないが、無論、階級が全てのこの世界でそんなことはおくびにも出せない。
「ちなみに、わたしの下の名前な、今時珍しく漢字表記があるんだ。親が
エレベーターを待つ僅かな間に、彼女はまたつらつらと流れるように言葉を並べてきた。脳内で漢字を思い浮かべ、ミナトは答える。
「『
「ほう? 見かけによらず文武両道のようだね。素晴らしい」
頭一つ分ほど背の高いミナトの肩を器用にぽんと叩いて、羽切
「名が人を作るなどと言う。キミがこの街に来たのも
「……恐縮です」
自分の名をそのように褒められた経験などなく、ミナトはどう喜んでいいのか分からなかった。
程なくしてエレベーターが着き、
「随分と長い
彼女の身の丈にそぐわない光刀の長さが気になり、ミナトは思わず尋ねていた。気を悪くするふうもなく、女局長はふふんと胸を張って答えた。
「我が魂の写し身、霊刀『
水都・新京の守り手ならば白虎よりも青龍ではないのか、と聞きたくなる気持ちをぐっと抑え、ミナトは「はい」と頷いた。先程の口ぶりから、彼女が元々
「聞いたところによれば、キミ、随分と腕が立つそうじゃないか。期待しているぞ」
「……はい」
彼女の言葉に虚飾やお世辞が無いことは、ここまでの僅かなやりとりで何となく分かっていた。この人は本当に自分に期待してくれているのだろう。……なればこそ、ミナトは後ろめたさを隠すのが辛かった。自分のこの手は、もはや社会正義を遂行する手ではなく、命ある者を直接に殺めた手なのだ。
だが、 阪京の
自分は、本当なら、もう検事で居るべき人間ではない――。
「さて。気の利いた自己紹介を考えてくれていたのなら悪いが――見ての通り、キミの同僚達は皆出払っていてね」
地上48階の検察オフィスに足を踏み入れるや否や、妙はそう言って首をすくめてみせた。彼女の言う通り、広々とした執務室には
「聞いているかもしれないが、新京の
「はい」
ミナトは妙に誘導されるがまま、自分に割り当てられた執務机の前に立ち、
「よし、今日のキミの仕事は終わりだ。長旅で疲れたろう、今日は自宅に戻って休むといい」
「えっ?」
ミナトは思わず間の抜けた声を出してしまった。妙の言葉は二重の驚きを
「僕の住まいは官舎ではないんですか」
「ん? だが、キミ、この街に実家があるんだろう。一人暮らしの妹さんには先程連絡したが、キミの帰郷を嬉しがっていたぞ」
「……はい!?」
ミナトは今度こそ声を上げて驚いた。何かの聞き間違いではないかと思った。生まれてこの方、自分に妹が居るなどという話は聞いたことがなかったのだから。
「……ふむ。キミの親族関係に特殊な事情があったのは察せられるが、今、キミの実家に住んでいるのが、キミの
そう言って、妙は手元の携帯端末からミナトの端末に何かのデータを送ってきた。ミナトが絶句したままそれを開いてみると、そこには高校生くらいの女子の
「
ミナトと同じく、漢字表記はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。