『SHUTEN-DOJI ~逆襲の鬼神~』本編(未完)
chapter 1. 殺害の感触
――僕が殺した――
摩天楼も眠る
――僕が殺した――
その女の襲撃をひらりと
――僕が殺した――
己の握った
異形であろうと邪悪であろうと、一瞬前まで命が宿っていたもの。それを己が斬り裂いた。他の誰の物でもないこの手で――
――僕が――
――僕が――殺した!――
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
「――ッ!」
冷たい手で心臓を握り潰されるような
彼の覚醒を感知し、
『
死骸収容後の犯行現場の写真に続き、公式発表を読み上げる
殺害された女の死骸は画面に映らないが、間違いない。この事件は自分がこの手で起こしたものだ。自分のこの手が、あの異形の存在を殺したのだ――。
「……
ミナトは洗面台の鏡に己を映し、これから自分が送られるであろう地獄の名を思わず呟いた。国内に数少ない刑事収容施設の中でも、第一級の罪を犯した者のみが送られる洋上の監獄。殺人の
鏡に映っているのは
――出勤と同時に自首できることが、せめてもの幸いか。
ミナトは顔を洗い
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
天候規制の敷かれた空は今日も毒々しいほど青く晴れ渡っていた。地上
摩天楼の80階から
扉を開けて中に入ると、
「どうしたんや、ミナト。お
ミナトの内心を知ってか知らずか、局長はそんなことを言った。スキンヘッドの中年男の鋭い視線が、射抜くようにミナトの目を捉えてきた。
「一昨日の殺人事件のことですが」
「アレがどうした?」
「……僕が殺したんです」
喉の奥から絞り出すようにミナトが言うと、局長は「あ?」と顔をしかめた。
「自首をしに来ました。あの被害者は、僕がこの手で殺したんです」
自分の話が荒唐無稽なものに聞こえるのは承知の上だった。だが、事実は事実なのだから、自分は罪を告白し、罰を受けねばならない。
ミナトが二秒ばかり黙っていると、局長は執務机から立ち上がり、はぁっと重たい息を吐いた。
「アホか」
局長の乾いた唇が発したのは、ただその一言だった。
「いえ、僕は――」
「警察の発表は見たやろ。あの事件は明らかに人間業やあらへん。使われた凶器も、
局長は机を回り込んでミナトの前に立った。その鋭い目が、お前の
「いくら剣術が得意や
「……しかし」
「お前、悪い夢でも見たんやろう。幼少期のトラウマがフラッシュバックしとるんかもしれんな。可哀想に」
威圧と同情が同居したような視線を向けられると、ミナトはもう何も
あの犯行は人間業ではないと局長は言ったのだ。ミナト自身もそれはよく分かっている。だが、それでも、あの異形を斬り裂いたのは己のこの手だ。その矛盾を覆すだけのものが、己の身体には宿っているのだ。
だが――。
「この事件は
殺人犯であることは認めても、頭の狂った人間であるとは思われたくない――ミナトの意識下に染み付いた妙なプライドめいたものが、そのものの存在を上官に告げることを彼に躊躇させていた。
「……僕を隔離して取り調べて下さい。少なくとも僕を閉じ込めておけば、これ以上の被害は」
「ええから、お前、ちょっと頭を休めてこい」
ぽん、とミナトの肩に片手を載せ、局長は言う。
「お前は今日から
「……はい?」
「前から要請はあったんや。若くて優秀で、出来るヤツが欲しい
突然のことに意味が分からず、ミナトが目を
「新京はお前のルーツやろ。故郷の空気を吸うて、心を落ち着けてこいや」
「……ルーツと言っても、親父の実家があるってだけで、僕自身は行ったこともないんですよ」
その父親も、ミナトの幼少の頃に蒸発して行方が知れない。
「それなら、新天地で気分一新やな」
笑って話を終わらせようとする局長に対し、取り
「待って下さい、僕の殺人容疑はどうなるんですか」
「嫌疑不十分により不起訴。取り調べ終了」
阪京検察を統べる局長にそう宣言されては、最早どうしようもなかった。
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