其の四 信長、姫を救う
「……お二人が、わたくしを救って下さったのですね。何とお礼を申し上げてよいか……」
わしとリカの前で、その
金色の髪に白い肌、異人を思わせる青い目。身に纏っておるのは上等な絹の「わんぴーす」に、首元には真珠と思しき首飾り。必死の逃亡で息は上がり、着衣もやや乱れてはおるが、発言といい振る舞いといい、高貴な生まれ育ちの姫であるようじゃ。どこぞの落ち着きの無い「地下あいどる」も見習うべきじゃな。
「アナタ、日本語上手いねー。ガイジンさんでしょ?」
「にほんご……?」
わしの隣にちょこんとしゃがみ込んで姫の顔を覗き込み、そのリカが間の抜けたことを言うておる。
「たわけ。これは翻訳魔法で意思が疎通できておるのじゃ」
「え? あ、そーなの? えっえっ、じゃあ、ひょっとしてリカ、今英語喋ってるの!?」
「なに語かは知らんが、恐らく、この者にはわしらの言葉が己の言葉と同じように聴こえておるのであろうよ」
目をぱちぱちと
「あの、先程からお伺いしておりますと……。お二人は、異世界からいらした勇者様なのですか?」
否、それほど意味不明でもなかったようじゃ。この姫、少なくともリカよりは知能に長けておるようじゃな。それは当たり前か。
「そうそう、勇者勇者! 女神から世界を救えって言われてここに来たの!」
勇者様などと呼ばれ、リカはすっかり上機嫌でおる。まあ、現に「ちーと」を授けられ魔物を倒したのであるから、多少は調子に乗りたくなる気持ちもわからんではないが。
「あたし、現役JK兼ローカル地下アイドルのリカ。そんでもって、こちらは……ふっふん、聞いて驚くなっ、かの有名な織田信長さんだよー! いぇーい!」
「オダ……ノブナガ……さま?」
得意げに胸を張るリカと対象的に、姫はわしの顔を見てますます首を傾げるばかりであった。それはそうじゃろう。未来の
「わしは、織田
「後の世……?」
「わしとこのリカは、生まれた国は同じであるが、わしの方が四百年余り昔の時代に生きておったのじゃ」
「四百年……。すると、オダノブナガ様は、神様でいらっしゃるのですか」
姫が不思議そうな目でわしを見上げてくる。ふむ、わしが四百年余りにわたって生き続けておると認識したのであろうな。異世界転移だけでも人知を超えた現象であろうに、「たいむすりっぷ」の概念までも同時に理解させるのは難しい。よくよく考えてみれば、別々の時代の住人であるわしとリカが同じ世界に同時に転移するというのも元より不思議な話じゃ。
「まあ、神かと問われれば神でないとも言えんのじゃが、おぬしらが想像するような類の神ではない」
わしとて、話の流れで神仏を名乗ったこともあるし、後に明治天皇から神号を貰ってもおるのじゃが、この姫が聞きたいのはそういうことではあるまいて。
「わしらの世界では武将とか大名とか言うのじゃが……まあ、この世界で通じそうな語彙に置き換えるなら、一国一城の
「……そうでしたか。ならば、わたくしの父と同じですね」
涙に濡れた姫の瞳が、きらりと青く輝く。
「えっえっ、アナタのお父さんって王様なの!? え、じゃあ、お姫様!? ヤバイヤバイ! ノッブ、聞いた!? 本物のお姫様じゃん、この子!」
「少し静かにしておれ。それと、どさくさに紛れてわしに変なあだ名を付けるでない」
リカを押しやり、わしはその姫の目をじっと見て問うた。
「一国の姫であるおぬしが、何ゆえ魔物に追われておったのじゃ?」
「……わたくしは……」
姫は益々その瞳を涙に潤ませたかと思うと、自身の手をぎゅっと胸の前で握り合わせ、上目遣いにわしを見上げてくるのじゃった。
「お願い致します、勇者オダノブナガ様。わたくしの国を……
そして、姫は語り始める。この世界を苦しめておる脅威を――。
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