其の三 信長、「ちーと」を知る
「なになになに、何なのあれ! オークって何!?」
「取るに足らぬ
きゃいきゃいと
わしと本能寺で最期を共にした愛刀、
「の、信長さん、あんなの倒せるの!? 刀じゃ無理ゲーじゃない!?」
リカが声を震わせ騒いでおる。ふん。こやつ、未来人のくせして、学校の勉強のみならず「ふぃくしょん」の知識も持ち合わせておらんようじゃ。ひとつ、こうしたことを幾百度と体験してきた
「わしらは異世界に来たのじゃ。おぬしらの書物にあるであろう、こういう時はこうするのよ――『すてーたす』!」
刀を手にしたまま、わしは気勢高く叫んだ。が――
「……」
――馬鹿な。わしの眼前に何も現れんじゃと!?
「……なるほど。そういう『ぱたーん』か……」
「ちょっと、何やってんのよ、信長さん!」
「リカとやらよ。残念じゃが、今回『ちーと』は無い方の『ぱたーん』らしい」
「なになに、なんて!?」
「魔法は使えん、ということじゃ!」
念の為、刀の先から炎が出たりせんかと念じてもみたが、わしの身には何も起こらぬ。まあ、全ての「異世界ふぁんたじー」が「ちーと」を主題にしておる訳でもないからの。今回のこれは、己の才覚一つで異世界で成り上がれという「ぱたーん」なのじゃろう。
わしが刀を上段に構え、迫ってくる「おーく」どもを迎え撃たんと意を決した、その時。
「えー、だって、リカは女神から魔法使えるようにしてもらえるって聞いたもん! たぶん使えるって、たぶん! リカちゃんファイヤー!」
いやに乗り気でリカが叫んだかと思うと、広げて突き出した彼女の片手から灼熱の炎が噴き出し――
「なんと!?」
逃げる
「わっ!? 何、今の、すごいすごい! リカ、炎出しちゃった! 見た見た!? 信長さんっ!」
「ふむ。おぬしだけが魔法を使える『ぱたーん』じゃったのか……」
まあ、作劇の技法としてはそれも有りであろう。二人が二人とも対等に「ちーと」を使えたのでは話が面白くならんじゃろうからな。
炎を浴びて苦しむ「おーく」どもを見やり、わしは刀を下ろしてそのようなことを考える。
「止めを刺してしまえ、リカとやら」
「よーっし……! いっけぇ、リカちゃん大炎上ファイヤー!!」
リカが両手を合わせて突き出すと、彼女の背後に渦巻く炎が龍を
一瞬の後には、其処には魔物の
「ほう。やるではないか」
わしが素直に驚嘆して述べると、リカ自身もまた己の発揮した力が信じられぬという様子で、きゃあきゃあと跳び跳ねながら「はいてんしょん」で騒いでおる。
「ヤバイヤバイ、すごいすごいすごいっ! マジでチートじゃん! リカ、ひょっとして世界最強なんじゃない!? どーよ信長ァ、ちょっとはリカを見直したかっ」
「それはよいが、もう少しマシな技名は思いつかんのか」
「えー? いいじゃん、リカちゃん大炎上ファイヤー。今時のアイドルって言ったら炎上商法でしょ」
訳の分からぬことを言ってリカがはしゃぎ回るたび、
わしは下賎の
「……さて」
わしは片腕に纏わりついてくるリカを適当にいなすと、「おーく」どもに追われておった馬上の姫の姿を目で探した。見れば、ここより「十めーとる」ほど離れたところに、その
「あの者から話を聞かねばならぬ」
「え? あー、そっか、オーケー、じゃあレッツゴー!」
わしが
全く、頭が足らんくせして勢いだけはある娘じゃ。
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