第12話 ニワトリブレインの未来少女がコロっと百合にNTRれそうな件
「……つまり、だからね、遠い親戚の子なんですよ、コイツ」
余計なクチを挟むんじゃないぞと隣のアスナに目で釘を差し、俺は脳内のフィクションのパターンを検索してお決まりの言い訳をひねり出す。
いや、両手に花なんて羨ましいものじゃなくて、変質者と変質者に取り囲まれて俺が苦労してるのは皆さんさっきから見ててわかってくれてるよね……?
「なんというか、ちょっと家庭の事情があって、俺の部屋に一時的に住むことになってるだけで……」
「へぇー。アスナちゃん、ご家庭の事情ってなぁに?」
「ふぇ? お父さんもお母さんも普通に元気にしてるですよ?」
「お前、ちょっとは口裏合わせようとかないの!?」
びくっと震えるアスナを庇うように、先輩が「まあまあ」と身を乗り出してくる。いや、なんで変質者Aと変質者Bが結託して俺を悪者扱いするみたいになってるの?
「偽証はイカンですなぁ、後輩。アスナちゃん、成田君のウチでヒドイ目に遭わされたりしてない?」
「ふみゅ、ヒドイ目ですか……? あっ、カメラ付きゴーグルを付けたナリタさんがお風呂に踏み込んできて、裸のまま廊下に引っぱり出されたことが……」
「ねえ、ちょっと言い方考えて!? 俺が社会的に抹殺されたらお前も住む家なくなるんだよ!?」
「そ、そうやってわたしをキョーハクするですか!? やっぱり過去の人はコワイです、ヤバンですっ」
「なんかお前ここんとこ俺に心開いたみたいになってたじゃん! あのラブコメモードはどこ行ったんだよ!」
いや、ラブコメモードにされてもそれはそれで困るけど、ここにきて初日と同じ警戒レベルに戻るってマジでニワトリ並みのブレインしかないのかコイツ。俺にクランチーアーモンドチョコレートフラペチーノのショートをあーんしようとしてた美少女は未来に帰ったのか?
「おやおやおや、成田君……平成29年の刑法改正でワイセツ目的の誘拐罪は非親告罪になってるよねえ……?」
「いやー、なんかコイツ昭和84年から来たらしいんで、平成の法律は適用されないんじゃないですか?」
「昭和84年って2009年? じゃあもう強○罪の公訴時効は10年になってるね」
「いや、かすりもしてませんよ強○なんて! しれっと重い罪にすり替えないでくださいよ!」
「えっ、わたしは強○の時効の話をしただけだけど……まさか心当たりが……?」
「ないですって! ていうか2009年なら強○はまだ親告罪でしょ!」
「アスナちゃん、勇気を出して告訴するなら力になるよ?」
「ふぇ?」
ニワトリは話に付いてくるのを放棄してハニーカフェオレを飲んでいた。よしよし、そのまま黙ってろ。
「まぁ、冗談はさておいても」
先輩がくいっと赤メガネを直して言ってくる。
「社会正義を担う弁護士志望としてはー、非人道的行為が行われてるなら見逃せませんなあ」
「どこに冗談さておいたんですか?」
ていうか属性盛りすぎなんですよアナタ。「ネットに強い弁護士」とか炎上まっしぐらだからやめといた方がいいと思いますよ。
「一応聞きますけど、見逃せなかったらどうするんです」
「だから言ってるじゃぁん、わたしがアスナちゃんを
「いや、アナタ今寝取るとか言い掛けましたよね?」
「というわけでアスナちゃん」
「はい?」
「わたしとコスプレとかやってみる気なぁい? アスナちゃん可愛いし、あっという間に人気になれるよー」
「みゅ……コスプレってなんかヒワイなやつじゃないんです?」
「そんなことないよぉ。どこで聞いたの?」
「だって、ナリタさんが前に口にしてた単語ですから」
「なんで俺が卑猥な野蛮人みたいな扱いになってんだよ!」
「アスナちゃん、かわいそうに……。家で成田君に卑猥な言葉ばかり聞かされてるのね……」
「ずっと同じラボにいる俺より会ったばかりのコイツの方を信用するんですか!?」
「えー、そんな、ただ同じラボにいるだけで知り合いみたいな顔されても困っちゃうんだけど」
「図書館で知り合いみたいな顔して話しかけてきたのアナタでしょーが!」
俺の突っ込みに、先輩はわざとらしく震えて身をちぢこまらせた。
「男子の突っ込みってこわーい。アスナちゃん、毎日これに耐えて大変だったね」
「ちょっと、そうやって同情示してウチの居候を
「ふぇっ……あ、あの、わたし、アイルさんのこと誤解してたかもです……警戒しちゃってごめんなさい、アナタはいい人ですっ」
「お前もコロっと
びくっとした目で俺を見てくるアスナと、向かいから手を伸ばして彼女の頭をよしよしと
だから言わんこっちゃない……。貞子と伽椰子をぶつけてダブル除霊を目論むはずが、いつの間にか合体悪霊VS除霊者の構図になっちゃってるじゃん……。
「ていうか、成田君ってどこに住んでるの? どんな部屋?」
「あー……それはプライバシーというか……」
「ナリタさんのお部屋はタワーマンションってやつですよ! ガラス代だけで42万円するやつです!」
「ちょっと、バラすなって! 秘密にしてんだから!」
一大学生が分不相応なタワマンに住んでるなんて、周りに知られてもどうせロクなことにならないので、ただでさえ少ない友人の誰にも明かしていなかったのに。よりによって後輩のものは先輩のものとか言い出すジャイアンの前で……。
「えーっ、そんないいトコ住んでるの!? ずっるいなー。まさか違法な商売にも手出してるの?」
「『も』って何ですか『も』って!」
「キミだけ良い家住んで可愛い女の子囲ってるなんて見過ごせないから、わたしも遊びに行っていい? 今から」
「今からぁ!?」
論旨展開が雑すぎません? ていうか「遊びに行っていい?」への返事を聞きもしない内から「今から」を投げてこないでくださいよ。
「なになに? わたしに踏み込まれたらマズイものでも隠してるのかな?」
「マズイものなんてあるわけ……いや、あるな……」
この時代に存在してはならない自動車大の物体がリビングの中央に鎮座ましましてるな……。たまに喋るやつが……。
「……いや、ほんと、俺の住まいなんか覗いても何にもオモシロイことないですから」
「別にキミの住居に興味があるわけじゃないよ。アスナちゃんの居候先に興味があるんだよ」
先輩がにまっとアスナに目を向けると、ネトラレニワトリは諸手を挙げて喜んだ。
「わぁい、アイルさんなら歓迎ですー」
「勝手に歓迎するな! 俺の部屋なんだよ!」
「おばさんの部屋でしょ?」
「叔母さんに歓迎されなきゃ入れないと思ってるなら即刻出てけよ」
「みゅう、だってガラス代……」
アスナの呟きに、先輩が目ざとく反応する。
「なになに? ガラス代って」
「わたし、ナリタさんに42万円弁償しなきゃいけないんです」
「正確には、そのハニーカフェオレの340円が加わって45万9852円な」
「成田君、そのくらい奢ってあげようよ……男じゃないなあ」
「社会正義を担う弁護士志望が男女差別しないでくださいよ」
「歳上なら出してあげなさいって」
「……グウの音も出ねえ」
なんか、そう言われてみると、15歳だか16歳だかの少女の飲食費まで1円単位で貸付金に計上してる自分がひどく矮小な男に思えてきた。
えっ、大丈夫だよね、人の部屋のガラスぶち割って飛び込んできた身元不明の不審者を住まわせてやってる上、ガラス代に衣服代まで立て替えてやってる俺って、マンガになったら相当器の大きい主人公に見えるよね……?
「でもでも、アイルさん、ガラスが割れちゃったのはわたしにも責任の一端があるんですっ。だから頑張ってバイトして返そうと思っててっ」
マンガになったらセリフの全部に校閲入りそうなヒロインがなんか言ってる。とりあえず「一端」のとこは厳重に赤入れしてほしい。
「なぁんだ、そんなのアスナちゃんなら簡単だよ」
ふふっと笑って先輩が言う。マンガだったら赤メガネのレンズがきらりんと光りそうなシーンだった。
「アスナちゃんもアイチューバーやって稼いだらいいじゃない?」
「ふぇ?」
「アスナちゃんの可愛さとキャラ立ちがあったら、そんなガラス代なんてあっという間だよー。参考までに、わたしのチャンネルの収入はねー……」
声をひそめるという技能を久々に思い出したように、先輩は俺とアスナにこそっと自分の月収を告げてくる。普通にびっくりする金額だった。
「先輩……。それもう真面目に働くのバカバカしくなりません?」
「そんなことないよ、ちゃんと貯めてロースクールの資金にするんだもん。親にも奨学金にも頼りたくないからねー」
「なんか常識人みたいなこと言ってる……」
そして、俺が恐る恐るアスナの顔を見ると……。
「はいはいはいはい! やるですやるです! アイルさん、やり方教えてくださいっ!」
インターネットが何かも分かってない奴が、こともあろうに自分の言動を顔出しで全世界に発信する意向を表明した瞬間だった。
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