【幕間】買い物帰りにスターバックスに寄ってみた件

「ふっふーん。ショッピングモールって楽しいですね、ナリタさんっ。たくさんの人の笑顔に溢れててー、幸せな未来!って感じですー」

「ほんの一時間前にヤンキーに光線銃撃った人間の言うこととは思えねえよ」

「こーんな可愛い靴も買ってもらって、ルンルンですよ?」

「いや、買ってあげたんじゃないからね? その服も靴も一時的に立て替えてるだけだからね?」

「ぴーぴゅー」

「口笛吹けてないし。お前の借金、現時点で45万1940円な」

「ナリタさん、おっかねもちですねー」

「じゃないから困ってんの。お前に割られたガラス代でお年玉貯金が全部吹っ飛んでんの」

「自信持ってください、ナリタさんの才覚があればすぐ稼げますよ」

「いや、お前が稼ぐんだよ?」

「あっ、はいはいはい、ナリタさん!」

「なに」

「いっぱい歩き回ったらノドかわいちゃったです。何か飲んでいきましょーよう」

「未来人ってほんといい神経してるよな」

「わぁい、褒められたです」

「褒めてねーよ!」

「でもでも、ホラ、さっき結局マックシェイク飲めずじまいでしたし。マクドナルドに戻りましょ?」

「科○特○隊のコスプレで光線銃ぶっ放しといてあのフードコートに戻れると思ってんの?」

「だいじょーぶですよう、誰も気付きませんよう。今のわたしはホラ、2019年の美少女仕様ですし!」

「無駄にぴょんぴょんするなって」

「どこからどう見てもこの時代の普通の女の子でしょ?」

「だから無駄にくるくる回るなって。……わかったわかった、どっか別のカフェかなんか入ってやるから」

「ふぇっ!? カフェーってあの、女給さんがヒワイな服装でサービスする……」

「それ戦前のやつな。お前そんな時代の人間じゃねーだろ」

「なーんて、ちょっとボケてみただけですー」

「お前にボケられてもボケか素か微塵もわからねーんだよ」

「みゅう。……じゃあじゃあナリタさん、わたし、いかにも2019年っていう感じのお店がいいですー」

「いかにも2019年ねえ。流行ってるって言えばタピオカ?」

「たぴおか?」

「……いや、やっぱナシナシ。タピってる系女子の領域に足を踏み入れるとかマジで敷居高すぎるし」

「ナリタさん。『敷居が高い』は入りづらいってイミじゃなくて、不義理があって顔向けできないってイミですよ?」

「何その唐突な博識!?」

「はぁ、まったく、これだから平成生まれは……」

「お前、しまいにはミイラにして未来に送り返すぞ」

「ひぇっ。……あ、ナリタさんナリタさん、あれってカフェじゃないです?」

「あー、スターバックスねえ。めっちゃ並んでんじゃん」

「人気のお店なんです?」

「まあ、オシャレ系の方々御用達っていうか……Macのリンゴ光らせ勢と、空の写真でポエム呟き勢の聖域っていうか……」

「何一つわかんないですけどヘンケンだらけなのはわかるです。あっ、リンゴってあれのことです?」

「へ? ああ、いや、あれは期間限定メニューの看板だろ」

「ぐりーんあっぷるじぇりーふらぺちーの……べいくどあっぷるぴんくふらぺちーの……ナリタさん、フラペチーノって何です?」

「なー、何だろうなフラペチーノって。ウインナーコーヒーみたいなもんだろ」

「おや? ナリタさん、さてはこの時代の若者なのにこの時代の流行りモノを知らないですね?」

「悪かったな、スタバに縁のない陰キャで」

「うふふー、入りましょ入りましょー、並びましょ並びましょー」

「詳しくないって言ってんのに」

「だからじゃないですかー。たまにはナリタさんが知識なくってドギマギしてるとこ見てみたいです」

「ナチュラルに意地悪いなコイツ……。ていうかそれは服屋と靴屋でやっただろ」

「あっホラ、メニュー配ってるですよ! わぁっ、どれも美味しそうですっ」

「俺はブラックコーヒーでいいよ」

「えー、せっかくですし、キャラメル、ま、まきあーと? キャラメル・まきあーととかにしましょうよ」

「お前もそれが何かわかってねーだろ」

「この、ダーク・モカ・チップ・フラ・ペ・チーノはいかがです?」

「切るとこ多い多い。いいの、俺はコーヒーはブラック派なの」

「えぇぇー、クリープを入れないコーヒーなんて風刺のないマンガと同じですよ?」

「何それ?」

「知らないですか!? 手塚治虫先生がコマーシャルで言ってたです!」

「だからいつの人なんだよお前は。生きて動いてる手塚先生なんて見たことねーわ」

「もったいないことしましたねえ」

「いや、2009年に高1ならお前も手塚先生とは行き違いだろ?」

「脳髄を移植された手塚先生二世が今も名作を生み出してらっしゃるですよ?」

「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいと思わないの!?」


「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」

「えーと、ブラックコーヒーのホットと……お前何にするって?」

「クランチー・アーモンド・チョコレート・フラペチーノくださいっ」

「またメチャクチャ甘そうなのを……」

「お客様、サイズはいかがなさいますか?」

「大きいのがいいでーす」

「そんなに飲めないだろ。SかMで十分だって」

「ひぇっ、人前でSとかMとか」

「ヒワイじゃない! スミマセン、二つともスモールで」

「ショートでございますね」

「し、ショートね! う、うん、モチロンそれで。お願いします」

「891円になります。Tポイントカードはお持ちですか?」

「はい、はい」

「109円のお返しとレシートのお渡しです。商品ご用意致しますので、黄色いランプの下でお待ちくださぁい」

「はい」


「くすくす、ナリタさん、この時代の若者なのにSがショートのSなの知らなかったんです? スモールとか言っちゃって恥ずかしいですねー」

「うるせーな。お前なんかTポイントカードのTが何かも知らないだろ」

「何言ってるですか、ちゃんとメニューに書いてあるでしょっ。TはトールのTですよ」

「いや、違うけど……ていうか何なんだよ、サイズがショートとトールとグランデとヴェンティって」

「うーん、未来感ありますねー」

「未来っていうか異世界って感じだ」

「ドリップコーヒーとフラペチーノでお待ちのお客さまー」

「あ、はいっ」

「わぁい、美味しそうっ。スモールでも十分大きいですねっ。あっ、いけない、この時代ではショートっていうんでした! 2019年の常識ですよねー!」

「お前マジで江戸時代かどっかに飛ばされて侍に斬られてろよ」

「あっ、あそこの席空いてるですよナリタさん!」

「やれやれ……」

「ふー。一休み一休みっ。今日はほんとにお疲れさまでしたー」

「このペースだと帰るまでにまだふた悶着くらいありそうだけどな……」

「これ、このストローをスプーン代わりにするです?」

「知らないけど多分そうじゃねーの?」

「ふみゅ……わっ、甘くて美味しいっ!」

「結構なこって」

「これ昭和30年代に持ってったら、巨人・大鵬たいほう・チョコレートフラペチーノですねっ」

「チートにも程があるわ」

「ふふふー。ナリタさんもいります? クランチーアーモンドチョコレートフラペチーノのショート」

「いや、俺はコーヒーでいいって」

「そんなこと言わずー、ほらほらー、あーんしてくださいよー」

「しないよ!? ラブコメ時空には転移しないよ!?」

「だからラブコメって何です?」

「昭和人は知らなくていいんだって」

「みゅう。でもでも、ホラ、今日一日のお礼と思って一口受け取ってくださいっ」

「しゃーねーなーもう……スプーン貰ってくるから動くなよ」

「わぁい」

「……はぁ。誰か俺に平穏な日常を返して……」



 ♪


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