引退試合

 開始の合図と同時にあたしは踏み込んだ。両手に走る打ち合いの衝撃。息つく間もない攻防の中、震える空気が面金めんがね越しに肌を刺す。

 鼓膜をつんざく相手の気勢。負けじと声を張り返し、剣先を僅かに上げた刹那、まばたきより速く胴を打ち抜かれた。悔しがる暇もなく仕切り直し、眼前の敵と呼吸を合わせる。

 中学最後の県大会。相手は県下に敵無しと言われる泉中せんちゅう天美あまみさん。あたしより小柄なのに、その剣閃は疾風を纏うようで。話したことはないけれど、三年間ずっと彼女に勝つことが目標だった。

 暑い、クサい、可愛くない、そんな声も無視して竹刀を振り続けてきた。あたしが惚れ込んだこの競技で、強敵ライバルに勝ちたいから。

 しかし、三年分の気合を込めたあたしの打突は軽やかにいなされ――

 寸秒後にはこうから面を打たれた。視界の隅で旗が上がる。試合終了――。


 閉会式の後、先生や仲間に励まされ泣き止んだあたしに声を掛けてきたのは、他ならぬ天美さんだった。


「高校、どこ行くの?」


 えっ、と戸惑ってから、あたしが志望校を告げると。


「じゃあ、春からはチームメイトだ。一緒に全国行こうね」


 その言葉にハッと目を見張る。

 頷いて彼女の手を握り返すと、新たな青春たたかいの予感に心が弾んだ。

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