君に中毒

 私はスマホを手放せない人間だった。食事中も

移動中も画面を見ていなければ気が済まない。し

かし若者のながらスマホと一緒にされても困る。

ソシャゲの類は一切やらない。ラインやインスタ

を見ているのでもない。強いて言うなら私は情報

中毒なのだ。ガラケーの頃から報道サイトを読み

ながら歩き、Wikipediaを読みながら食事をした。

携帯電話を持つ前は紙の本が手放せなかった。親

しくなりかけた女は皆それを理由に去っていった。

それよりも脳の回転を止めることの方が私には苦

痛だった。理解できない者は付いてこなくていい。

そんな私が三十路も半ば過ぎて初めて恋らしい恋

をした。「試しにスマホを置いて、顔を上げてみ

ませんか」初対面に等しい私に彼女は言ったのだ。

「私に中毒になってくれたほうが嬉しいです」と。

脳へのインプットを回さず漫然と食事だけをする

時間は退屈という名の拷問に等しかった。しかし

逢瀬を重ねる内にいつしかそれにも慣れていった。

君さえ居れば文字など要らない、と言うには程遠

いが、今の私は日に二時間程度ならインプットを

諦めて彼女との時間を選択できる。今は再来週の

披露宴の席上でスマホを取り出すのを我慢できる

かが心配だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る