板野かも殺人事件 ――出典:フリー百科事典「Wakipedia」

板野かも殺人事件(いたのかもさつじんじけん)[1]は、2020年(令和2年)4月8日に愛治県名護屋市で発生した殺人事件。覆面作家板野かもの正体ではないかと疑われた一家6人が殺害された大量殺人事件である。愛治県警による正式名称は「名護屋市一家6人殺人事件」。「覆面作家殺人事件」、「小説サイト逆恨み殺人事件」とも呼ばれる。


事件の概要 [編集]

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犯行経緯 [編集]

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犯人の男A(犯行当時21歳)は作家志望の大学生であり、WEB小説サイトでの活動を通じて覆面作家の板野かもと交流があった。Aの主張によれば、2019年10月、Aは板野が小説サイト上で主催した私設コンテスト「匿名短編コンテスト」に作品を投稿したが、同年11月、同コンテストの結果と全応募作品の作者名が板野により公表された際、そこにAの名前はなかった。Aは、板野自身の応募作とされた作品『X』は本当は自分が応募した作品であり、同コンテストを利用して板野が自分の作品を盗んだのだと主張。Aは板野への糾弾と自身の権利の回復を求め、SNS等を通じて小説サイトの利用者達に広くこの件を喧伝したが、Aの主張を信じる者は少なかった[要出典]。同年12月、板野は問題の作品『X』を改案した長編小説を発表。翌年3月にこれが出版されたことで、Aは板野に更に強い恨みを抱くに至り、遂には板野の殺害を決意した。


板野は年齢・性別・居住地域などのプロフィールを対外的に一切公表していない「覆面作家」であり、インターネット上で板野と親交のある作家達の中にも、その顔や実名はおろか性別を知る者すら皆無に等しかった。そこで、Aは出版社員を装って板野にメールを送信し、板野の返信時のヘッダ情報からIPアドレスを割り出したり、板野のSNS等での発言内容から居住地域や行動範囲を分析するなどの「調査」を重ね、最終的に名護屋市千草区内の被害家族宅を板野の居宅と確信するに至った。事件当時、この邸宅に居住していたのは、70代の推理作家Bとその妻C、その娘で雑誌編集者のDと婿の医師E、そしてDE夫妻の子である男子大学生のFと女子高校生Gであった(Gは名護屋のローカルアイドルグループのメンバーとしても活動していた[2])。後の裁判で、Aは、この6人の全員が板野の正体に思えたと供述している[3]。


そして、2020年4月8日未明、Aは包丁3本とロープを持って被害家族宅に押し入り、就寝中であった家族6人を次々と手に掛けていった。AはまずDE夫妻の寝室に侵入し、真っ先にEの胸を包丁で刺して殺害。Eの呻き声に目を覚ましたDの口元を塞ぎ、「こいつ(E)が板野か」と尋ね、Dが否定すると続けて「じゃあお前が板野か」と尋ねた。これもDが否定したため、AはDの首筋を包丁で切って殺害。騒ぎに起きてきたFに抵抗されるも、包丁で二度三度とFの体に切りつけ、「板野なんか知らない」とFが命乞いをするのも聞かず、最後はFの首を包丁で刺して殺害した。続いてGの寝室に侵入したAは、恐怖に震えるGに「誰が板野か教えろ」と迫り、Gが「私が板野です。だから他の家族は殺さないで」と答えたため、Gの首をロープで絞めて殺害した。一度は板野の殺害を果たしたと思ったAだったが、程なく、板野の活動年数や作品の質を考えると正体が高校生では辻褄が合わないと思い直し、残るBC夫妻の寝室にも侵入、騒ぎに気付かず眠っていたBの胸を包丁で刺して殺害した。最後に残ったCに対し、Aは「誰が板野だったんだ」と詰問するも、Cが「知らない」と繰り返すばかりだったため、これも胸を包丁で刺して殺害した。6人全員の殺害に要した時間は僅か20分程であった[4]。


事件直後、周辺住民の通報により警察が臨場、Aは抵抗することなく殺人容疑で現行犯逮捕された。


捜査と裁判 [編集]

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Aは逮捕直後から犯行を自供したが、動機に関する裏付け捜査は難航した。板野は編集者等とのやりとりも全てメールを通して行っており、出版社の中にさえ板野の正体を知る者はいなかった。結局、被害者の中に本当に板野なる人物が存在したのかすらも明らかにならないまま、2020年6月、名護屋地検はAを殺人の罪状で起訴した。尚、Aは警察・検察の取り調べに当初粛々と応じていたものの、被害者の中に板野が存在しなかった可能性に捜査官が言及すると、「それなら本物の板野を探し出して殺さないといけない。早くここから出してくれ」とひどく取り乱したという[5]。


同年7月、Aに対する裁判員裁判が名護屋地裁で開かれ、公判廷においてもAは「被害者の中に板野が居たのかを早く突き止めてくれ。あの中に板野が居なかったのなら、自分は今すぐここを出て板野を殺さなければならない」と繰り返し騒ぎ立て、一時は退廷を命じられる事態にもなった。弁護側は心神喪失による無罪を主張するが認められず、同年9月、検察の求刑通り死刑判決が言い渡された。Aは判決言渡公判でも「最後に死刑になるのは構わないが、その前にここを出て板野を殺さなければならない」と喚き立てたものの、後に弁護士を通じて控訴断念の旨を明らかにし[6]、一審の死刑判決が確定した。2023年現在、Aは名護屋拘置所にて収監中である。


社会への影響 [編集]

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この事件は発生当初からメディアで大きく取り上げられ、WEB小説サイト利用者や作家志望者が世間の好奇の目に晒されるという弊害も生じた。一方、一連の報道を通じてWEB小説という文化が世間に知れ渡り、その意義や内容に対する肯定的評価が増える契機となったと指摘する識者もいる[7]。


事件当初「覆面被害者」として報道された板野かもは、実際に事件後しばらくはインターネット上での消息が途絶えていたものの、Aの裁判確定後の2020年10月頃からSNSでの発言や作品の更新を再開している。2023年現在も板野はその素性を明かしておらず、殺害された一家が板野と無関係だったのか、それとも殺害された板野の活動を別の者が引き継いでいるのか、全ては謎のままである。

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