「匿名短編バトル きみのロボット編」参加作品

次元機神センチュリオン 第6話「世界最後の翼」

警報アラート! 損傷率25%、エネルギー残量低下、左腕さわん部アクチュエータ動作不能!』


 可変機動兵器エアセイバーの狭い操縦席コクピットに響き渡るのは、毎度お馴染みの不吉な言葉の数々。耳障りな警告がヘルメット越しにがんがんと鼓膜を叩く中、あたしは操縦桿スティックを握る手に力を込める。


『何やってる、カスガ! 継戦はもう無理だ、離脱しろ!』


 相変わらず頭の固い司令部が無線でやかましく呼び掛けてくる。あたしは構わずペダルを踏み込み、敵怪獣の熱線を避けて機体を敵に肉薄させた。

 無人の街を震わす咆哮を上げ、獰猛な怪獣が鋼鉄はがねの機体に喰らいついてくる。あたしは咄嗟に機体を横に振り、動力の死んだ左腕をわざと敵の餌食にしてやる。

 ここで離脱なんて出来るものか。滅びに向かうこの世界で、あたしが逃げたら誰が戦うんだ。


「ブーストソード、オン!」


 あたしの声紋認証で封印を解かれ、分子を断ち切る科学の剣が機体の右腕部に伸びる。


「喰らえ!」


 剣を振りかざした、その時。


「ッ!?」


 あたしの視界を、刹那、濁った赤の閃光が塗り潰した。


「しまっ――」


 それは怪獣が機体の左腕を放し、こちらへ向かって撃ち出してきた破壊熱線だった。敵はただの単細胞な獣ではなかったのだ。隙を突いて攻撃しようとしていたあたしが、逆に敵に引きつけられていた――!?

 やられる!

 あたしが反射的に目を閉じたとき――


GIGANTIZEギガンタイズ――RIXIONリキシオン!】


 聞いたことのない電子音声が、キャノピーの外で響いたかと思うと――

 敵怪獣のうめく声に続いて、重たい何かが地面に着地する凄まじい衝撃があたしの機体を揺らした。

 あたしが恐る恐る目を開けると、そこには。

 太い胴体に太い手足。人間にたとえるなら相撲取りのような体型をした、肌色の巨大な機体。紫色のまわしの如き装甲が股間部を覆い、頭部にはまげのようなアンテナが黒い輝きを放っている。


「ロボット……!?」


 驚きに硬直するあたしの眼前で、その巨体は、怯む怪獣に連続で掌底しょうていを浴びせていく。いや、あれは相撲の「突っ張り」か……?

 炎を上げるビル街を土俵にして、そのロボットの猛攻が巨大な怪獣を追い詰めていく。あたしが目を見張っていると、突然、そのロボットの外部スピーカーから、どこか気取ったような男の声が響いた。


『ふむ、恐竜には恐竜。手に入れたばかりの力を試してみるとしましょう』


 そして、信じられないことが起こった。相撲取りのようなロボットの巨体が、一瞬にして銀色の光に包まれると――


GIGANTIZEギガンタイズ――GODREXゴッドレックス!】


 そのロボットの姿が、一瞬前までとはまるで違う、メカニカルな肉食恐竜を思わせるフォルムに変貌していたのだ。


「ええっ!?」


 電子の咆哮を上げて敵怪獣に飛び掛かっていくその巨体を見て、あたしは開いた口が塞がらなかった。

 あたしの機体エアセイバーも戦闘機への変形トランス機構を備えているが、目の前のあれはそんなレベルじゃない。

 変形とか合体とか、そういった次元ではなく。

 まるで、存在そのものを、別のロボットに変換しているような――!?


『レックス・ソニック!』


 恐竜型のロボットは雄々しく大地を踏みしめ、敵怪獣目掛けて咆哮を放った。苛烈かれつなる咆哮が衝撃の渦と化して敵に殺到し、たちまち、その巨体が粉々に爆発四散する。

 激しい爆風があたしの機体の視界を奪った。白煙が晴れたとき、あたしの眼前に立っていたのは、相撲取りでも恐竜でもなく――

 銀色を基調とした、ヒロイックなフォルムの巨大ロボット。

 その胸部と四肢には時計の文字盤を象った光球オーブが埋め込まれ、虹色の煌めきを放っている。真紅に光る鋭角的な双眼デュアルアイが、あたしの機体をぎらりと見据えている。


『それがのロボット……エアセイバーですか』


 頭部のキャノピーが開き、銀髪の若い男が乾いた風に顔を晒した。



 *   *   *   *   *



「チッ、変形機構もダメか」


 あたしは瓦礫の街に機体をひざまずかせ、損傷度ダメージをチェックしていた。左腕部の損壊だけならまだしも、可変機動兵器エアセイバーの取り柄である制空戦闘能力が失われてしまったのは痛い。基地に戻っても、直せるかどうか……。


「ここは、随分と荒廃した世界なのですね」


 銀髪の男が近くの瓦礫に腰を下ろし、無遠慮な視線をあたしに向けている。


「悪かったわね。絶賛、侵略者サマに最後の抵抗中よ」


 あたしは吐き捨てるように言ってやった。


「司令部で残ってるのはたった数人。パイロットも全員戦死して、残ったのは訓練生だったあたし一人。やってらんないよね」

「なるほど……。なかなか、素敵な物語だ」


 男の口ぶりにあたしはカチンと来た。別の世界から来たのか何なのか知らないが、見世物じゃねーぞ、こっちは。

 あたしが彼を無視して機体のチェックを続けようとしたとき、ずしんと巨大な震動が天地を揺らした。


「あれは――」


 あたしは灰色の街を振り仰ぎ、そして見た。

 先程のヤツの何倍もの巨体を持つ巨大な怪獣が、灼熱の熱線で無人の街を蹂躙じゅうりんしながら、一直線にあたし達の居住区を目指しているのを。

 そうはさせるか!

 あたしは迷わず操縦席コクピットに乗り込み、光子フォトン機関エンジンを再起動させていた。満身創痍の機体が再び鋼鉄はがねの命を宿し、死に場所を求めて唸りを上げる。


「行くのですか? 戦いに」

「そうよ。もう、この世界で戦えるのはあたしと愛機コイツだけなんだから!」


 あたしがキャノピーを閉めようとすると、男は「ふむ」と一声唸って、服のポケットに片手を突っ込む。

 男が取り出したそれは、虹色に光り輝く一枚のカードだった。


「ふっ。どうやら、あなたの熱意に私のカードが応えたらしい」

「はぁ?」


 彼の手元を見下ろし、あたしは驚いた。そのカードの表面には、あたしの機体――エアセイバーの姿が描かれていたからだ。


「何よそれ。あたしの機体じゃん」

「ええ。これで私はまた一つ、力を取り戻した」


 男はよくわからないことを口にして、ひらりと身をひるがえし、銀色のロボットに乗り込んでいく。


「アンタ、一体何なの!?」


 あたしの問いに、ふっと男が口元を釣り上げたとき、彼の乗機の瞳に真紅の光が灯った。


「私自身は、あいにく、語るような記憶は持ち合わせていませんが……。この機体は次元の流れ者、センチュリオン。お見知りおきを」


 銀色のロボットの双眼デュアルアイが、あたしの機体エアセイバーを見て不敵に笑ったように見えた。


(続く)

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