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平政30年(は)第108号 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

平政30年2月14日宣告

平政30年(は)第108号 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件


判 決


本 籍 静丘県濱松市濱北区***

住 居 愛治県名護屋市千草区***

被告人 A


上記の者に対する殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について,当裁判所は,検察官松本一慈及び同神門大樹並びに弁護人高塚夏男(主任)及び同荒井勇紀各出席の上審理し,次のとおり判決する。


主 文


被告人を懲役6年に処する。

未決勾留日数中30日をその刑に算入する。

名護屋地方検察庁で保管中のペティナイフ1本(平政29年領第***号符号1)を没収する。


理 由


(罪となるべき事実)

被告人は,名護屋大学の学生であり、平政29年5月頃より銀城女子大学の学生であるB(事件当時19歳)と交際関係にあったところ,平政29年12月24日未明頃,Bより「Cを殺してきてよ。」などと唆され,Cの殺害を決意し,同日,自宅よりペティナイフ1本(刃体の長さ約12.6cm,平政29年領第***号符号1)を持ち出し,

第1 同日午前10時41分頃,女性アイドルグループ「D」が握手会を開催中であった名護屋市湊区のE内ホールにおいて,殺意をもって,「D」のメンバーであるC(当時17歳)に対し,前記ペティナイフで,腹部,前胸部,左胸部,右背部を突き刺すなどしたが,同人に抵抗され,また,付近にいた男性スタッフに取り押さえられるなどしたため,同人に入院加療約3か月間を要する前胸部刺創,左胸部刺創,腹部刺創,右背部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げず,

第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時・場所において,前記ペティナイフ1本を携帯した

ものである。


(法令の適用)

判示第1の行為につき,刑法203条,199条

判示第2の行為につき,銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条


(量刑の理由)

被告人は,十分な殺傷能力を有するペティナイフを自宅から持ち出して,握手会の客を装って被害者に接触し,非力な若い女性である被害者の腕を引いて押さえつけ,突然のことに恐怖する被害者の胸部,腹部という身体の重要な箇所を順次突き刺した上,レーンの外に逃げようとする被害者の前に回り込み,さらにその右背部,前胸部等を強い力で複数回刺した。このような被告人の行為は,被害者の生命を奪う危険が非常に高い行為であり,強い殺意に基づく極めて悪質な犯行である。本件で被害者は重傷を負い,一時は死亡する危険が非常に高い状態にまでなったのであり,被害者が被告人を許すことができないと述べるのも当然である。また,被告人の犯行によって,和やかな握手会の光景が凄惨な場と化し,被害者は勿論のこと,「D」のメンバー,ファンが受けた精神的苦痛は非常に大きいといえる。さらに,参加者との信頼の上に運営されていたイベントが本件の影響で中止になるなど,その社会的影響は決して軽視できないものである。

本件は,被告人が,犯行当時,交際関係にあったBから「Cを殺してきてよ。」「私のことを本当に愛しているなら,Cを殺せる筈でしょう。」などとCの殺害を教唆され,犯行を決意したという事案である。弁護人は,被告人がBからの異常な愛情に基づく強固な精神的束縛を受けており,Bの言葉に逆らえない状態に置かれていたことを,被告人のために酌むべき事情として主張する。被告人がBから「私以外の女の子と会話しないでよね。」「私以外の女を好きになったら、あなたを殺して私も死んでやるから。」などと日常的に言い向けられていたこと,そのために,大学入学以前からの趣味であったアイドルグループのイベントに行くのを差し控えていたこと,Bの前で被害者をはじめとするアイドルグループのメンバーの写真等を破いたり燃やしたりすることを強いられたこと,度重なるBの自傷行為によって被告人が極度に疲弊していたことなどは,被告人や証人の証言その他の各種証拠からも明らかである。しかし,被告人に対するBの言動は,確かに身勝手で偏執的ではあるものの,Bが被告人を脅迫したり洗脳するなどしていた事実は認められず,Bに「Cを殺してきてよ。」などと唆されたからといって,被告人がそれを拒むことができなかったとは到底考えられない。したがって,弁護人の主張は採用できない。

被告人は,逮捕当初から一貫して,Bとの交際は自由意志に基づくものであった旨,Bと別れたいと思ったことは一度もない旨を供述しており,本件犯行の動機に関しても,「Bを寂しがらせたくなかった。」「Cを殺さなければ,Bが自分から離れていくと思った。」などと繰り返し供述している。被告人は,Bの教唆があったとはいえ,被害者を殺害すればBが喜ぶであろうという短絡的かつ身勝手な考えに基づき,芸能人とファンという以外に何らの関係もない被害者の殺害を自ら決意し,本件犯行に至ったのであって,その犯情は極めて悪質であるというほかなく,その経緯や動機に一切の酌むべき点はない。

そうすると,被告人の責任は,同種殺人未遂事案の中ではかなり重く,被告人に前科・前歴がないこと,公訴事実について認めていること,大学を退学処分となり一定の社会的制裁を受けていると認められること,Bと二度と会わないと誓っていること,本件教唆容疑で勾留中のBが被告人の減刑を求める嘆願書を提出していること,銀城聖マリア女子修道会の修道女であるFが被告人を修道女として迎え入れ生活を監督する旨を誓約していることなどを考慮しても,主文の刑を科すのが相当である。


(求刑 懲役6年,主文掲記の没収)

平政30年2月14日

名護屋地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官 小 石 公 一

裁判官 高 寺 佐 奈 子

裁判官 福 士 尚 樹

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