第9話! 敵の影


 「よし、じゃあそんな訳で上映会だ」

 「どんな訳だ!?」


 その日の夕方、瓦礫の撤去作業から帰った結城・ヴィオラに、綾川博士は格納庫内でそう笑顔で告げ、結城はそうツッコミを入れる。


 「うんうん、中々いいツッコミだ。悪くない」

 こくんこくんと頷く綾川博士。


 「綾川博士。途中で健斗さんが帰りましたが、何かあったのですか?」

 ヴィオラはそう言ってヘルメットを脱ぐ。


 「簡単に言うと、敵の正体が分かった。かも知れないって奴だ」

 「え!?」

 「それ、ここで言っていいんですか?」

 健斗の言葉に、結城とヴィオラは驚く。


 「無論よくない。だからミューティングルーム行くぞ」


 ついてこい。と二人をミューティングルームに連れて行く健斗であった。



 「そんな訳で上映会だ」


そんな訳でミューティングルーム。中にいるのは結城・ヴィオラ・綾川博士・健斗の4人だけである。出入口には警備員を置いて厳重


 「ま、待ってくれ。待ってください。映像なんですか?」

 「ああ、先の戦いの時にな。桜宮タワーってあるだろう?」

 健斗はポチポチとPCに繋がってるプロジェクターを弄りながら喋る。


 桜宮おうぐうタワー。高さ340mを誇る桜宮都のランドマークの1つである。

 今は既にニュー桜宮タワーと言えるスカイタワーに席を譲っているとはいえ、まだまだ桜宮都を代表する観光スポットの1つである。


 「それが?」

 「その屋上カメラに、ジュライハーを操っていると思われる人間の影が映っていた」

 「え!!?」

 「操ってるんですか!? あれを!?」

 健斗の言葉に2人は驚く。


 「おいおいヴィオラくん。まさかあの化け物が犯行声明を流してると考えてるのかい?」

 綾川博士は悪戯っぽい顔をして尋ねる。


 「そ、それは……」

 事件発生直後に「あんな声明信じるんスか」と言ってしまっていたヴィオラとしてはバツが悪いようにする。


 「まぁ操ってるかどうかは分からないがな」

 健斗もう悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 「兎にも角にも関係者であるのは確かだ」

 そう言って健斗はPCの映像を再生する。



 夜の桜宮タワーの屋上展望台。高いガラス張りの板に仕切られた光景が映る。当然人はいない。

 この時間帯なら夜の桜宮都の絶景が見られる筈だが、このカメラは昼間の観光客の監視用に角度が調整されていて夜景があまり拝められない。


 しかしそんな夜の展望台に、しかもガラス張りの板の奥に人影が見える。


 イメージしにくいだろうが、『学校の屋上のフェンスの向こう側にある本来の塀の所』に人がいるような感じである。

 

 「いかにも悪役が高見の見物と称して居そうな危険なスペースに誰かいますね……」

 「あそこ、なんて言うんですかね」

 「しらん」

 ヴィオラが言い、結城が問い、健斗が答える。



 映像の人影は2つあった。どちらも女性、しかも子供のようであった。


 片方ははしゃいでいるようだが、もう片方は冷静に『何か』を見物しているようだ。


 しばらくすると、はしゃいでる方が驚き、怒っているように見える。


 「これズームできないんですか?」

 「それに音声は?」

 「そんな洒落た事はできん。というかこいつはただの録画だ。実際の現場に居れば拡大もできたんだろうが……」

 ヴィオラ、結城の2人は尋ねて、健斗が即答する。


 「でも、随分と古風な……うちの国ドラコ―ヴァ皇国の伝統衣服みたいな服装してますね。これ」

 ヴィオラは目を細めて言う。

 残念ながら映像の2人は大分遠くで時刻も夜で大変見にくいし、しかも背中しか見えない状態であるが、それでもヴィオラは特定する事ができた。


 「ふむ、その意見は新しいな」

健斗はそう顎に手を当てて頷く。


 その後冷静な方は見飽きたとばかりに立ち上がり、そして……。


 「く、空間が歪んで……!?」

 結城は驚く。


 そう、空間をゆがませ、その歪みに入るかのように歩み始めたのだ。


 はしゃいでいた方もそれを追う様にその歪みに入る。


 その後、歪みは消え、カメラは誰も居ない屋上の映像を流している……。


 「と、これが警察から渡されたジュライハーと思われる関係者の映像だ」

 健斗はそう言って映像を止める。


 「あ、あれはいったい……!?」

 「今答えられるとすれば、多分……魔法だ」

結城の問いに綾川博士は答える。

 「魔法……!? そんな、世界から魔法が無くなったから新世界歴になったというのに!?」

 「ヴィオラくんの言いたいことは分かるけど、この映像記録を見るにそうとしか思えない。それに彼女たちが本当にあの化け物を操ってるとすれば合点もいくし」

 「それはそうですけど……」


 それでもヴィオラは納得しない様子だ。


 ふいに、部屋の電話が鳴る。


 「はい、綾川です」

その電話をとる綾川博士。


 「しかし魔法って事は、この世のもんじゃないって事か?」

 「まだ魔法と決まった訳ではないですが、確かにこの映像を見ればそう言いたくもありますね」

 「政府はこれを公開するのか?」

 「さあな。政府がこれをみてどう動くかなんて……」

電話をしている間、三人は独自に話を行う。


 「政府はこれを重く見ているようだよ?」

 電話を終えていた綾川博士がそう話に加わる。


 「どういう事だ?」

 「とりあえず向風博士が入り口にいるらしい。迎えに行こうじゃないか」

 結城の問いに綾川博士ははぐらかすかのように移動を開始する。


 そんな訳で外。

 そこには3人が驚く光景が広がっていた!


 「これは!」

 「軍隊?」

 「こいつは……帝都機甲師団か!?」

 3人が思い思いにその光景に驚く。


 そこにはライトアップされ、トラックや装甲車によって運ばれた兵士達がどやどやと何かしらの作業をしている光景であった。

 無論戦車が何台か見える。実験場にあるような改造しつくされた旧式ではなく、新型の戦車である。

 戦車だけではない。レーダー車両や大砲を牽引している車なども見られる。


 「無論、その一部の部隊だけどね」

綾川博士がそう答える。


 「博士。これは一体……」

 「政府はこの研究所を対ジュライハー戦の最重要拠点として認定し、その為に防衛部隊の設置を決定したのだ。本隊は麓の廃校を本営として、近く駐屯所を建設するそうだ」

 結城が尋ねると、向風博士がやってくる。


 「政府はもたらされた映像を公開し、ジュライハーと戦う事を決めた。わしらも忙しくなるぞ」

 向風博士がそう宣言するように言う。


 すると、警報が鳴り響く。


 「早速ジュライハーが再び現れたようだ!いけ!クォーリーチーム発進だ!!」

 「「「了解!!!」」」


 かくして3人は格納庫へ走り出す。


 「綾川くんも早く行きなさい」

 「えっと、博士。多分指揮権は私にあるんじゃないんですかね……」

 「いや、君技術官だから部隊指揮権ないと思う。というか今法整備中だから超法的な扱いらしい。というかはやくオペレーション室へ行って彼らをサポートしなさい」

 「あっはいわかりました」

 向風博士に諭されるように綾川博士はやっと走り出す。



つづく。

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