第8話! 初戦の後。
<えーですから。あれは目からビームではなく、ツノから発生したエネルギーが手を経由して指の間に特殊な力場を形成し指向性の光線を放ったのであり、目からビームではなく指の間からビームと言ったものでして>
<そんな事は聞いていない!あのロボットはなんなんですか!>
<軍が極秘に開発していた新兵器という話もありますが!?>
<えーですから。あれは『人型多目的広域極地運用型 調査兼開発用大型作業機械』であり、15年前以上前から国の予算案に組み込まれているものでして、これに関しては一般に情報公開している筈ですが、皆さまはご存知ないのでしょうか?>
<それは……>
「おっと、流れ変わったな」
「ちょっと健斗さん。作業中にテレビ中継見ないでください」
「別にいいじゃねぇか。操作は結城メインじゃねぇか」
「その結城さんが迷惑がってますよ!」
「いや、別にいいよ。作業は単調だし。気にしないで大丈夫だ。ヴィオラさん」
「さん付けはしなくて大丈夫ですよ。結城さん」
そんな会話をする結城、健斗、ヴィオラの3人。
3人は今、桜宮都において瓦礫の撤去作業を行っていた。
事の発端は、綾川博士が「政府から瓦礫の撤去作業の要請だってさ」というのほほんとした口調から始まった。
「いや、だってあれ宇宙開発と極地調査もできて土木建設・災害救助も兼ねてるスーパーロボットだし……別に突然現れた変なのを倒すために作られたマシンじゃないから、ここで出ないと予算が危なくなるから出て欲しい」
という中々世知辛い事情があって、クォーリードラゴン・ティランは瓦礫の撤去作業に従事していた。
そんな中、「今、向風博士が記者会見してるよ」という通信が入り、健斗がさっそくテレビ中継を見ている訳である。
「でも、その。自分が言うのもアレだけど、これ3人でやる必要なくない?」
「お前もそう思うか?」
「まぁ……瓦礫をダンプに乗せるだけの簡単なお仕事ですからね……」
「必要だと思って出したハンマーも使わないしなぁ、そういや使わなかったハンマーってどうなるんだ?」
「手にもってペンドラニウムエネルギーが供給されないと消えるんですよ。不思議ですよね」
「不思議すぎるだろそれ」
等と、会話をしている時に通信が入る。
<あー。健斗クン、警察で川西刑事という人は知っている?>
綾川博士である。
「川西? 知ってるも何も同期だが」
健斗は久しぶりに聞いた同期の名前に少し驚く。
<よかった。なんとご指名を受けてね、近くの指示所にいるみたいだから会って欲しいんだけど>
「はぁ? なんでまた?」
<渡したい物があるとかなんとか。とにかく会って欲しい>
「で、それで俺が来たって訳」
ご指名ありがとうございます、と健斗は川西の顔を見るなりそう不敵された顔で言ってのける。
クォーリードラゴンを降りて近くに設置された指示所なる陣幕の近くに川西はいた。
「まさかお前があのロボットに乗っていたとはな。警備じゃなかったのか?」
「気が付いたら訳分からん乗り物に乗せられて運転できたから採用されたのさ」
「ははっ。お前にしては面白いな」
「いやマジだっての」
等、久しぶりの同期との再会に満更でもない様子の健斗。
「それで、本題は?」
その言葉に、川西は顔をシャキリとさせる。
「例のジュライハーっていう
「テロリストねぇ……」
そう言って健斗は煙草に火をつけ、咥える。
ジュライハーの襲撃から数日が経過した今。
世界は混乱の最中にあった。
ジュライハーを名乗る謎の存在は、あの日、世界中の主な都市に出現し破壊活動を行っていたのだ。
大抵は既存の軍隊で対処したが、生半可な攻撃では倒しきれず、倒しても合体しだす存在に、既存の軍隊だけでは対処が難しかった。
そんな中、クォーリードラゴンのような巨大ロボット、スーパーロボットが実験的に投入され、一定の効果を上げていたのだ。
そう、世界の国々の中にはクォーリードラゴンのような珍妙なものを開発している国が他にもあったのだ。
とりあえず一夜明ければ『あれはなんだ』『お前の処のそれもなんなんだ』『皆黙ってそんなものを開発していただなんて……幻滅だ』『お前が言うか!!!』の応習であった。
幸いにして『ジュライハー』なる人類滅亡をたくらむ共通のテロリストの存在が居る為、とりあえずは世界各国は協調路線に就いている。というのが現在の状況であったのだ。
「あれを人間が作ったとは思えないがね」
「そう言うな。あのバケモンを操る人間がどうやらいるらしい」
川西の言葉に健斗は反応を示す。
「なんだと?」
「桜宮タワーの屋上カメラが偶然捉えた映像でな、まだ公開されてない。上層部や政府や軍のお偉いさんの所にコピーを渡したんだがね。こいつをお前さん方に渡してくれとの事だ」
そう言って川西は映像データの入ったUSBメモリの入った透明の袋を見せる。
「そういうのは俺じゃなくて研究所に直接行って渡すもんだろ」
「このゴタゴタでどこも人手不足なんでな。その研究所の人間がここで作業してると聞いて、しかも元同期がいると聞いて渡りに船だと思ってな」
「ふん。そういう事か。分かった。とりあえず貰っておく」
健斗はそう言って煙草を吹かす。
「なぁ。お前、まだあの事件の事を」
川西は思い切ったように話を切り出す。
「もう終わってる話だ。ホシも捕まえて死刑判決も出た。それ以上何も言うべきではない、だろ」
「それはそうだが」
「ならもうそれでいいだろ。話は終わったんだ。行けよ」
「ああ、すまなかった。じゃあな。お前も頑張れよ」
「おう、お前さんも達者でな」
そう手を上げて見送る健斗。
数分後、誰も居なくなったその場に一人、佇む健斗。
ため息のように吐く煙草の煙。
煙の先にはクォーリードラゴンがダンプに瓦礫を載せる作業をしている活気と喧騒に満ちた光景が広がっていた。
つづく。
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