第7話! 最強の力はみんなの為に。
不思議な光景、いや空間であった。
真っ白かわずかにオレンジがかったような暖かな空間。
その中心になにやら黒い影のような、否、陰ではない、女性がうずくまるように浮いている。
「(彼女は?)」
女性は銀のように白い長髪。黒みがかった灰色の肌。頭には赤い角が4本。そして背中に2組、腰に1組の竜の翼としか言えない翼が生えている。
明らかに人間ではない。だが敵ではない。それだけは分かる。
彼女に見覚えはない。彼女は深い眠りについているようだ。
『彼女は、 さん。君たちの『竜の根源』だよ』
どこからか声が聞こえる。
『彼女に危機が迫っている。彼女が侵されないように、僕は君を呼んだ』
声は頭に響いているようだった。
「(呼んだ? 侵される? どういうことだ? お前は一体!!)」
結城は叫ぶ。
『僕は、 。君を呼び、身体に力を与えた者。』
「(なに!!!? それはどういう!!!)」
答えた声に、結城は再び叫ぶ。
「ッッ!!!」
瞬間、結城はハッとする。
そこはクォーリードラゴンのコックピット内であった。
「今のは!?」
「どうした結城!舌でも噛んだか!?」
健斗の通信が入る。どうやらクォーリードラゴンと叫んだ直後に意識が0.1秒だけ飛んでいたらしい。
「いや、なんでもない!行くぞ皆!!」
「「おう!!」」
3人は勇ましく叫ぶと、機体は夜の桜宮都を駆けた。
「バトルテック・ハンマァァァァァアアア!!!!」
結城がそう叫ぶや否や、胴と肩の中間にある丸い関節部分から棒が出てくる。
ティランはそれを掴み、強引に引き抜くと、棒はハンマーへと形状を変える。
『キシャアアアアア!!!!』
桜宮都中のジュライハーが天を仰ぎ、頭のつぼみから鉄塊弾を発射する。
「うおおおおおお!!!!!!!」
だが、結城はそれを織り込み済みで、ハンマーを風車のように勢いよく回転させる。
<パリィって奴か!いいね!!>
通信でパリィにいいねする綾川博士。
「ドカドカと街を破壊しやがって!!ゆるさねぇ!!!」
そう叫んだ結城は、ティランを高速で近くのジュライハーに接近させる。
ティランの翼は羽ばたいたと思った瞬間に既に高速移動を行い、中の結城もその動きに対応していた。
「もらった!」
あっという間に距離を付けたティランは、ジュライハーの一体を叩き潰した。
否。叩き潰すという言葉は不適切であった。
<上空から高速移動してからあのハンマーの振り下ろしをしたのだ。ああもなろう>
冷静に状況を分析する向風博士。
「ガンガンいくぜぇ!!」
「おう!ガンガンいけぇ!」
「敵までの最短距離を表示します!」
結城の言葉に健斗とヴィオラは答える。
そこからはティランが上空へ飛びあがり、ハンマーを次々とジュライハーに振り下ろし、叩き消すという
「これで6体目!」
結城は巧みにティランを操り、既に6体を撃破していた。
「(こいつ、本当に初めてか?)」
6体撃破の前に、ジュライハーからの攻撃を躱したり防いだり、上空への退避やそこからの攻撃への転換が非常に上手であったため、健斗はそのように思い始めていた。
なにせ、攻撃が当りそうになった瞬間に「オープン・クォーリィ!」と即座に分離して再び合体する様を手慣れた感じでやるのだからそう思うのも当然であった。
「(これじゃあまるで、歴戦のエースか何かじゃねぇか)」
まるでアニメの世界から来たんじゃないかって思えてくる健斗。
<む、不味い!最後のジュライハーが病院を狙っている!>
「そこの病院は都内でも有数の大病院!まだ避難しきれてない人々が居る筈!!」
「(今はそんな事どうでもいいかッ!)」
綾川博士からもたらされた情報と、ヴィオラの説明により、引き戻される健斗。
「結城!低空でハンマーを振り上げる事は可能か!?」
「余裕だ!」
「じゃあぶち上げろ!!」
「了解!!」
健斗の言葉に、結城はティランを動かす。
ティランは道路を這うように低く飛び、最短距離で病院を狙うジュライハーに接近した。
「よし、これで最後だ!!」
「やれ!結城!!」
「ああ!!」
そしてついに、ティランは最後のジュライハーにハンマーを振り上げる。
上空に打ち上げられ、消し飛ぶジュライハー。
「これで終わったか!」
「やれやれ。汚い花火だぜ」
安堵する2人。
<病院の安全を確認。よくやった>
「でも街がボロボロですね……」
冷静になって街の損害状況を確認するヴィオラ。
確かにティランは着地こそしなかった為、ティランの破壊はそれほどなかったものの、フルスイングによる消し飛ばす行為での損害はなかった訳ではなかった。
「なに。俺達がやらなきゃ全壊だ」
<それはそうなんだけど、これが続くとなると、何か対策が必要だね>
健斗はそう言うも、綾川博士には思う所がある。
<うむ、今それを色々と考えておる。今のティランによるペンドラニウム炉の活性状況から応用して、炉から算出されるエネルギーを使えば何かできるやもしれん>
向風博士もそう言う。
「ティランこれより帰還します」
結城はそう言って操作を行おうとする。
「!? 待ってください!センサーに感あり!これは!?」
「なんだ!?」
ヴィオラの言葉に健斗と結城はすぐ反応する。
<こっちでも反応を確認した!これは……最初のレールガンで倒した2体のジュライハーが、合体している!?>
綾川博士は驚愕の声をあげる。
モニターで確認すると、確かに肉塊と化したジュライハー2体がネチャネチャと触手を出して結合している姿が映る。
<あまり気分のいい光景ではないな。ハッキリ言ってグロテスクだ>
向風博士はそう冷静に言う。心なしかウップと吐き気を感じる音が混じる。
「結城!早く叩き殺せ!」
「いや、何をしてくるかわからない!奴の出方を見る!」
<いいね。結城クン。その判断はいいよ、グッドだよ!>
健斗が急かすも、結城は前世の記憶ではこういう場合、冷静に出方を見た方が良い結果が出ると経験則で知っていたのだ。
しかし、その判断はこの場合に限っては良くない結果を招いた。
結合するや否や、ジュライハーは触手を高速で伸ばし、空中のティランを拘束したのだ!!
「しまった!!!」
二体が合体したジュライハーは巨大になり、ティランに匹敵する50m程にまで巨大化していた。
バキバキとあちこちから嫌な音が聞こえる。
<不味い!このままだと!>
「くそ!抜け出せない!」
「合体解除は!?」
「駄目です!それができないレベルに強力に縛られてる!!」
綾川博士、結城、健斗、ヴィオラの順に喋るも、状況は最悪である。
ジュライハーが頭のつぼみをティランに向ける。
このまま止めを刺されてしまうのか?
「ぐううう!!ここまでなのか!?」
悔しさに歪む結城。
――お前のその力で皆を護ってくれ。レンヤ・アビントン。
そういって、
「(そうだ。俺は、こんな所でくたばる訳にはいかない!!いかないんだ!!!!)」
この力はみんなの為に使う。と、前世の最強の
現世の場合、このクォーリードラゴンこそが現在の『最強の力』であった。
「負けて、たまるかあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
『グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』
咆哮する結城とティラン。
そう、ティランも結城に呼応するかのように叫んでいる。
「ティラン・クロー!!!」
結城が叫ぶと、ティランの両腕にある籠手らしき物から鋭い爪が生える。
「ぶった切れティラン!!」
健斗が言うとティランは自分を拘束していた触手を細切れにしてしまう。
「拘束が解けた!これで超必殺が撃てる!」
そうヴィオラが嬉し気に言うと、ティランの4本の角が赤く光る。
「ティランの角に高エネルギー反応!これは!?」
「クォーリーのエネルギー量、なおも上昇!!」
「これは一体!!?」
モニターしていた研究スタッフたちが異変を感じ取る。
「まさか、ティランがパイロットの感情に反応している?」
綾川博士はそう考察を口にするが答えはでない。それよりも。
「超必殺!」
それよりも。
「「「目からクォーリー・ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイム!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
何故、両手をピースして目に当てて、目から超特大ビームを放っているのか?
ちなみに爪はもう引っ込めてる。
「これがペンドラニウム・エネルギーの真の力……いや、まったくもって未知だ。素晴らしい……!」
そう静かに向風博士は呟いた。
とにもかくにも、クォーリー・ドラゴンは勝利を収め、人々を護る事ができたのであった。
つづく。
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