第4話! 恐怖に打ち勝つ為の決意、そして現れる敵!
東咏(とうえい)帝国首都『桜宮都(おうぐうと)』
かつて実権を握っていた武士の政権に代わり、権威的存在であった帝を擁する新政府が発足してから早200年余り。新都として建設されたこの桜宮都も今ではビル群立ち並ぶ世界有数の都市へと変貌していた。
今は丁度闇の戸張が降り、街は眩いネオンに包まれ、不夜城のテイを成していた。
そんな賑やかな夜を、無慈悲にも破壊する存在が現れる。
「は? なんだ?」
皆口々にその異物に対して疑問を口にする。
ソレは、一言で言えば怪物。であった。
かつてその昔、存在していたとされる魔物とはまた別の、生命体……
あえて言うのであれば、それは大きさが周りのビル群を超える巨大な生命体であるので、『異形な悪魔』と表現すべきであろうか。
その怪獣の見た目は身体は人型だが、腹部分に横に口が付いており、頭部は植物のような丸みを帯びた何かであり触手が無数に生えており、目玉が正面、左右、後ろに1つずつ付いている。まさに異形としか言えない生命体であった。
その異形の悪魔は街の喧騒を黙って見つめているようであったが、次の瞬間、頭の植物性の触手が一斉に伸び、建物を破壊しだした!!!
建物だけではない。地上も足の爪部分からも肉系の触手が伸び、周囲の車や通行人を捕食している。
掴んだ人間や車などを、腹の口の中へ運んで咀嚼を行う。普通に地獄のような光景であった。
「こちらパトロール!助けてくれ!化け物が!怪獣が人を!」
その場にいた警官はそのような悲鳴を上げて無線で状況を伝える。
だが、悪魔の口から意図的に丸められた車や瓦礫の残骸の塊を高速で飛ばされ、無残にも警官はそれに巻き込まれて絶命してしまう。
数分前まで平和な喧騒に包まれていた夜の街は。阿鼻叫喚の地獄へと変貌してしまった。
※ ※
それより数時間前。
桜宮都(おうぐうと)より少し離れた所にある山に、向風研究所は存在している。
そしてその山の一角をくり貫いて作られたのが試験場であった。ここでは主に研究所で作られた実験機や試作品を使いまわすのが目的の場所であった。
だが、今日の実験場は今までとは違う光景が広がっていた。
山の一角をくり貫いて作られた試験場に、戦車が走る。
いや、正確には戦車に似た何かである。
ソレは、40m程の、巨大な戦車の下半身(キャタピラ)を持つ上半身がロボットのクォーリードラゴン。の3号ベースのカオ形態であった。
3号機ベースのクォーリドラゴン・カオは鈍い黄色とも言えるカーキ色の機体であり、両腕は武器であった。
「まずはエネルギー・ガトリングだ」
3号に乗る綾川博士がそう言って右腕の4連式のガトリングが回転し、エネルギー弾が射出される。
「ふむ。まずは上々」
綾川博士は前方に見える標的の板をガトリングで薙ぎ払い、その結果に満足している様子だった。
「ではこちらは?」
綾川博士はポチポチとボタンやスイッチを操作する。
すると胴体と肩装甲の中間にある第一肩部とも言える赤い武装用肩のハッチが開き、ミサイルが発射される。
これもまた出されている標的の板に着弾し、粉微塵になっていく。
「うんうん。中々いい趣味をしているよ。ヴィオラくん」
<お褒めの言葉、有り難く思います>
綾川博士は観測班に回されたヴィオラに褒める。
「確か、このカオ形態はヴィオラさんが発案、設計に携わっていたのだったか?」
健斗はそう確認するように言う。
<いやですわ、さんはいりませんよ健斗さん>
「ああ、すまない」
健斗はそう詫びの言葉を出す。
<ふふ。でも大体そんな所です。プロトタイプの頃から携わってるので思い入れがあるんですよ>
そう微笑んだような声で答えるヴィオラ。
「(ヴィオラさん……歳は俺と変わらない筈なのに、こんな重装備のロボットを設計・開発するなんて……恐ろしさを感じる……)」
そう一人凄みを感じる結城であった。
「さて、それじゃ本命行ってみようか」
話を切り上げるように綾川博士は左腕の300㎜大型レールガンの使用に踏み切る。
<はい、2000mの距離に戦車を用意してます>
ヴィオラはそう指示を行う。
確かに、モニターには2000mの距離に東咏(とうえい)帝国の旧式戦車が設置されていた。
旧式戦車、既に現代戦は120㎜砲が主流となっている今、この戦車は100㎜砲を積んでいるタイプのもので、確かに旧式であった。
だがその性能と装甲は近代化により主流の戦車についていける物であった。
とはいえ、もう登場から数十年以上経過した現代では流石に限界であり、このように試し撃ちの的として払い下げられていた。
<しかし、まだ肩の140㎜対空速射2連装レールガンと大型無反動キャノンがありますが、それは?>
「それはまた明日かな」
二人がそう話す間にも、バチバチとカオの左腕の大型レールガンの銃身に電流が走る。
そして次の瞬間、解き放たれる。
モニターの旧式戦車に大穴が開き、爆発する。
≪命中、お見事です≫
ヴィオラはパチンと手を叩いて喜ぶように状況を伝える。
「いやぁ凄いねぇ。ペンドラゴニウム炉。今までできないとされていたレールガンもこれなら小銃感覚で撃てるよ。これ」
≪ええ、世紀の発明ですよね≫
そう言って綾川博士とヴィオラはキャッキャッうふふと話に花を咲かしている。
「……これ、既存の兵器に積んだ方がいいんじゃないだろうか」
「言うな結城。ここではそれは長話の始まりだぞ」
結城の疑問に、健斗は答える。
「さて、それじゃ1号のティラン形態行ってみようか」
しばらく綾川博士とヴィオラが話を咲かしていたが、話を切り上げてそう告げた。
「結城、あまり気張るんじゃないぞ」
「わかってる」
そう言ってクォーリドラゴン・カオは3機の航空機に別れる。
「(何度やってもこれが不思議な感覚だ……)」
そう思わずにいられない結城。
瞬きする間にコックピットの向きが変わるのはどういう仕組みなのだろうか。
「さて、まずは健斗と合体する」
「言い方がアレだな」
そう言って綾川博士は飛んでる状態で三号機のカオを、二号機のリュクシオン号にぶつける。いや合体させる。
映像で見たとおりに3号機と2号機は足部と胴体部に変化する。
「(さあ、次は俺の番だ……!!)」
無意識に体が強張る。
計器をしっかり見ているが、どうも慣れない。
それもその筈。結城ことレンヤ・アビントンは前世で『後ろから追突される事』にある意味恐怖を抱いていた。
前世の戦いは、敵テクシートの戦闘ドクトリンから、ハンマーなどの質量を持った武装でのたたき合いであり、『後ろから何かがぶつかってくる』というのはつまり死すら覚悟する状況であったからである。
……最も、この世に後ろから追突されるのが好き。などと言う存在がいるとは思えないが。
結城の緊張のせいだろうか、当然のように合体は失敗してしまう。
お互いの機体に衝撃が走る。
「ぐわあああ!!!」
「ぬう」
「うお!」
結城、綾川博士、健斗は悲鳴を上げる。
※ ※
「結城さん。やはり先ほどの合体失敗は貴方が原因です」
どうにか研究所に戻り、モニターしていたヴィオラがそう告げる。
「どうしたんだい? ティランのあの狂気的な加速とGに耐えた君が、合体に恐怖を持つなんて」
意外そうな顔をする綾川博士。
「まぁ……音速こそ出ていないが速度が出ている状態で追突するとなればそりゃ誰でも怖いとは思うがな……」
そうフォローする健斗。
「……」
結城は何も言えない。
そんな時に向風博士が近づいてくる。
「お前には恐怖心と迷いがある。その恐怖心と迷いがある限り、お前にあれを乗りこなす事は無理だろう」
そんな状態に追い打ちをかけるように厳しい口調で言う向風博士。
「!!」
見透かされた!という顔をする結城。
「大方、なんでロボットである必要があるか? とかそういう疑問だろう」
「……答えられるのか?」
「ふん、そんな物、決まっている。浪漫だからだ」
向風博士はそうきっぱりと答える。
「ロマン……?」
「格好いいからだ。ペンドラニウム炉は我々科学者の長年の夢だった合体機能付きロボットを開発可能としてくれたのだ」
淡々と語る向風博士。
――何故こんなカスタムをするかって?格好いいからだ。
――いいか。レンヤ。赤く塗るのは男のロマンだ。で、こいつの肩、赤く塗らねぇか??
「ロマンか……」
結城ことレンヤ・アビントンは前世の先輩エースの言葉を思い出していた。
赤が好きな先輩で、ことある毎に赤くしないか? と迫る人だったが悪い人ではなかった。
ロマンの為に振り回されるこちらとしてはいい迷惑だが、まあ。付き合うのも悪くはない。
「仲間を信じて、飛べ。か」
結城が無意識的に口にしたのは、その先輩の最期の言葉だった。
「うん? うむ。まぁそんな所だ」
向風博士は先程からペンドラニウム炉がもたらしてくれた科学的恩恵を延々と語っていたが、少し面食らった様子で話を終える。
その後は着替えて研究所内にある宛がわれた自室でのんびりした後、夕食の時間なので食堂へ行く。
「よう、結城」
「健斗さん」
最初はアレだったが、何かと気に掛けてくれてる健斗が隣の席に座る。
「健斗でいい」
そう言って雑談混じりで食事を始める二人。
「健斗、あのクォーリードラゴンって本当に宇宙開発用なのか??」
そんな雑談の時に、クォーリードラゴンについての疑問をぶちまける結城。
「厳密には土木建設・災害救助に極地調査も兼ねてる」
「いや、でも3号のカオは明らかに……」
「あれは軍絡みだ。綾川博士は元々軍の研究部の人間だったが、向風博士のペンドラニウムエネルギーの研究に夢中となり、こっちに移ってきたんだ」
「軍所属だったのか……綾川博士」
「ああ、それでペンドラニウムの軍事転用の展望の有無を研究するためにあんな重装備形態になったんだ」
健斗が言うには、3号のカオはレールガンやエネルギーガトリング等、まだ正式には実用には至ってない色モノ兵器を搭載した軍事研究機であり、ある程度撃ちまくったら武装を変えて別の色モノ兵器を試すそうである。
「話じゃ、合体機能を省いた機体が2,3機軍隊にはあってそこでもここと同じように研究してるらしい」
「よく知ってるんですね」
「なに、この程度なら軽く話をすりゃ簡単に聞き出せるもんだ。ただな……」
健斗は目を反らして話す。
「さっきからヴィオラ嬢がこっちを見てる」
「え?」
「探すな。目を合わせるな。普通にしていろ」
「一体なんでヴィオラが?」
「さあな。探りを入れてるようではないが、気を付けた方がいいかも知れん……」
そう二人が話をしていると、にわかに食堂にあるテレビがおかしくなる。
『これにより、ザザッ……は、極めて……ザザッ」
「ん、なんだなんだ」
研究所スタッフが不思議がる。
『ザザッ……我々は究極生命体ジュライハー』
「は?」
不調なテレビに研究所スタッフが集まって来たが、突如としてそのような声明が発表され、戸惑うスタッフ達。
映像は砂嵐まじりのニュースのままである。
「テレビジャックか?」
「え? テレビジャック?」
健斗の言葉に繰り返すしかできない結城。
『貴様ら人間のような不完全な下等な生命体に生きる価値などない。死ぬが良い』
テレビはそのような物騒な事を言い出す。
『我々は究極生命体ジュライハー。貴様らのような不完全な下等な生命体に生きる価値などない。死ぬが良い……』
テレビは映像はそのままに、そのような宣言のような台詞を繰り返している。
映像のニュースキャスターは異常に気付いて慌て始めている。
<あー。緊急事態緊急事態。現在原因不明の電波ジャックにより広域でテレビやラジオから謎の声明が垂れ流しにされてる状態。直ちに問題はないが、クォーリードラゴンパイロットならびに通信・電波に詳しい人はメインルームに集まって欲しい。です。はい>
なんともやる気のない綾川博士の声がアナウンスとして流れる。
「行きますよ。二人とも」
ヴィオラがいつの間にか近い。そう言ってヴィオラはメインルームに行ってしまう。
「行くぞ。結城」
「ああ!」
そして三人は向かう。
テレビからは依然として謎の声明が垂れ流しにされてる。映像はしばらくお待ちくださいの背景になっている。
つづく。
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