第3話! ペンドラニウムの秘密!


 「さて、じゃあペンドラニウムについて説明を開始するよ。結城クン、健斗クン、ヴィオラくんもいいかな?」

 ミューティングルームにて綾川博士がそう確認を行う。


 「ああ、よろしく頼む」

 「……頼みます」

 「はい、アヤカワ博士」

 結城、健斗、ヴィオラは思い思いに答える。


 「えーまず。ペンドラニウムとは、数十年前、向風博士および東咏(とうえい)帝国とドラコ―ヴァ皇国の共同調査隊が、エルダー大陸南部の中央砂漠において発見した未知の鉱物『エンシャルト鉱石』から精製された金属なんだね」

 綾川博士が説明を行う。


 「でもこのエンシャルト鉱石ってのがね。どうも何かの爪のような代物でねぇ」

そう言って後ろのプロジェクターで画像を映す。


 確かに何かしらの動物の爪のようにも見える。


 しかしデカい。


 1m、いや2mはあるだろうか?


 「デカすぎじゃないか?」

結城は思わず零す。

 「うん。生物学者いわく、神話時代の竜の爪なんじゃないかって話」

 「神話……?」

 「まぁ勇者が竜を倒すとかそういうお話だよ」

結城の問いに綾川博士は軽く流す。


 「しかし、そういう事だと、鉱石というより化石では……?」

健斗はそう指摘を行う。

 「成分検査やスペクトルム解析では鉱石だと識別された。とありますね」

大学生という事もあり諸事情を知ってそうなヴィオラは渡された資料に目を通してそう言ってのける。


 「まぁ詳しい事は生物学者に任せるとして、大量に出土したもんだから、ちょっと拝借してしっかりした金属ペンドラニウムにしたら、これがまた凄いエネルギー量でねぇ」

 「うむ、このペンドラニウムを安定した炉にしたのが、何を隠そうこの私。という事だ」

綾川博士の言葉を見計らう様に誇らしげに言うのが向風博士であった。


 「このペンドラニウム・エネルギーは非常に面白い物でな。このように」

そう言って向風博士は興奮しながらプロジェクターの映像を示す。


 映像には3つの航空機らしき機体が映っている。

 航空機は奇妙な形をしていたが、皆機体カラーは白で、黒字で1、2、3と番号が振られている。1号が一番前を飛び、3号が一番後ろであった。


 「この機体は……ティラン号か。色が白いな」

結城はその機体の1つに見に覚えがあった。ティラン号であったが結城が乗った物は赤かった。


 3つの航空機は縦に一列に綺麗に飛んでいた。が。


 「なっ!? ぶつかっ……!!」

結城は叫ぶ。

 一番後ろの航空機が何を思ったのか!二番目の機体と追突したのだ!

 だが!その時不思議な事が起こった!!


 「変形!? いや合体したぞ!?」

結城は目を疑った。

 そう、3番目の機体と2番目の機体が追突した思ったその瞬間、機体が形状を変えて2つは合体してなにやらロボットの下半身となったのだ!!


 「驚くのはまだ早い」

向風博士はノリノリで言う。

 博士の言う通りまだ早かった。2番と3番の合体物が、一番前を飛ぶ1号の白いティラン号目掛けて再び追突したのだ!


 「あっ!」

 っと言う間に、肩が形成され、腕が生え、頭が下手な作り物の猫のような、角ばりのあるツノ状になったかと思えば、中々やる気の抜けた顔のような……になったのだ!!!


 「(あ、あれはウォーギアWG!?いや、違う…!なんなんだ!?)」

結城ことレンヤ前世が驚くのも無理はない。


 前世のウォーギアはいうなれば工業品。それも軍用である。

 軍用ともなれば洗練された形状、無駄を廃した効率的な作りとなり、ネジ一本一本が大量に生産される前提で開発、組み立てがなされたであった。


 だがこのロボットはなんだ? 大昔の娯楽映像作品に出てくるような非効率的な造形、大量生産に適していない造りに意味不明な合体機構、既存の常識では説明不可能な変形機構。どれも前世の記憶がある結城には理解できない物ばかりであった。


 最も、前世で最後に乗っていた機体は特注品、専用機であり、大量生産を目的としたウンヌンは誤りかも知れない。

 

 「顔といい、下半身の造形といい、中々可愛いですよね」

ヴィオラはほんわかとした声で言う。

 「え? あ、ああ……」

結城はそう遅れて答えるのが精いっぱいであった。

 確かに、顔が絶妙にやる気のないような顔であり、下半身も配色的にオムツをしているような珍妙な造形のロボットである。


 「このように、航空機同士が変形合体するという奇妙な特徴があると判明し、この撮影からさらに研究を進めて、現在の形に持って行った訳である」

 向風博士はそう言って現在のティラン号と二機を示す。


 「ところで、この撮影時のパイロットは? 俺と結城はこの撮影時にはいなかったのだが……」

そう真面目そうに健斗は博士に尋ねる。


 「ああ、それは私とそこのヴィオラくんと博士の息子である向風 渡(わたる)くんが乗っていたよ」

 「ええ。でも、その時に渡さんは……」

綾川博士が答えるとヴィオラもそう残念そうな顔で言う。

 「渡の事は……残念であった」

向風博士が悲痛な表情で答える。


 「……すまなかった」

健斗はそう申し訳なさそうに謝罪を行う。

 「いや、いいんだ。遅かれ早かれこの話はしなければならなかったからな」

向風博士は気を病むことはないとばかりに言う。


 結城としては戦争のないこの平和な世界でもこういう実験・試験中の死亡事故があるのかと驚いていた。

 彼の前世では、常に戦時状態だった為、戦友が亡くなるのは珍しくはなかったが、それでも辛くないという事はなかった。


 「そういえば……今の機体も3つの機体を合体すればロボットになるん……だよな?」

結城がそう話を切り替える。

 「うむ。3つの機体が1つになった形態、それが『クォーリードラゴン』なのだ」

結城の言葉に向風博士がそう答える。


 「クォーリー……ドラゴン……!」

結城がそう反芻するように言葉にする。


 「ちなみにあの3つの機体の総称はクォーリーマシンって名称でね。このクォーリーマシンは、ティラン号・リュクシオン号・カオ号の3つで構成されていてね。ティラン号は結城くん。リュクシオン号は健斗くん。そしてカオ号は……」

綾川博士がツラツラと言い続ける。何故かヴィオラが既にどや顔である。


 「カオ号は、私が乗る」

綾川博士はそう宣言した。


 「? それは聞いてませんよ?」

変な声が出てしまうヴィオラ。てっきり自分が選ばれるものとばかり思っていた様子である。


 「いや、プロトの時一番怪我浅かったけど怪我したじゃん」

 「本当は私が乗りたかったのだが、プロトの段階で鼻血が出たのでな……」

博士二人が冷静に言い放つ。いや、向風博士の場合は単に「わしもう歳だし……」的な宣言ではあるが。


 「そんな!あんな怪我!怪我のうちに入りません!それに私はあれから鍛え直してるんですよ!」

 「そうだとしてもやっぱり 危険だから私が乗るんだよ。大丈夫、余程の事が起きたら流石に交代してもらうから」

 「言質取りましたからね!」

綾川博士とヴィオラはそう親しそうに語る。



 「全く……あの二人は……」

呆れるようにつぶやく健斗。

 「ん? どうしたんだ? 結城」

先ほどから黙っている結城に、健斗は不思議がって声をかける


 結城は。というと、やはり謎の変形と合体機構に戦術的意義を見出せずにいた。

結城はこの世界においては高卒であり、あまり頭は良くない分類になってしまうが、前世のレンヤ・アビントンは独立軍のエースであり、一応士官教育や訓練を受けていたのだ。

 その教育の中で、テクシート軍や他星間勢力軍の戦術ドクトリンも学んでいるが、それでもこの変形と合体は見た事がない。

 というか異なる航空機が変形して足・腰・肩と頭になるとかどういう理屈なんだ。そんなの玩具でも見た事がない機構だ。本当にどうなっているのだ。


 それにペンドラニウム炉と言ったか? それもそんなに凄いエネルギーなら合体機構を省けばさらに凄いロボットが作れるのではないのか? そもそも結城の記憶によればこの世界にはテクシートのような脅威はなく、もっぱら航空機や戦車、大砲や水上艦船のみで宇宙にはまだ研究段階でしか展開できていないのだからロボットは必要ないのでは? 等、疑問が次から次へと湧き出ている。


 「まぁその。なんだ。戦争する訳じゃあないんだから、そう難しく考えるなよ。高卒のくせによぉ」

それを察したのか、そう健斗は言ってみせる。

 「高卒は関係ないだろ!それに高卒高卒って、お前はどうなんだよ!」

 「俺か? ……俺は、元警察でな。……大学院出てる」

気まずそうにそう答える健斗。

 何か過去にあったのだろうか? しかし結城は大学院という言葉に驚いた。


 大学院。それは「昔存在していた学問機関」という認識であった。

 馬鹿な……大学院だと? 伝説のみに記された幻の学問機関がこの惑星にあるとでも言うのか!!!みたいな心持ちであった。


 「いや、そんな意外そうな顔をするなよ!」

 「え、いや、そんな。じゃあなんでそんな人がこんなところに?」

 「そ、それは……」

言葉が詰まる健斗。


 「まぁまぁ。そう過去を詮索するもんじゃないよ。結城クン」

言葉が詰まっている健斗に助け船を出す綾川博士。


 「本格的な合体訓練は明日とする。今日の所はこの辺でお開きだ」

既に収拾がつかなくなってるのをみた向風博士はそう締めるように言った。



 だがその翌日。世界が一変する大事件が起こったのであった……!


 それは結城達向風研究所一行のみならず、この惑星文明、いや宇宙の行く末すら左右する壮大な運命の、ほんの始まりにすぎなかった……!!!!


 つづく。

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