第2話! 音速での目覚め


 自分が邪悪な宇宙人テクシートの支配から立ち上がった独立軍のエースだった事。

 そしてジリ貧になるので、乾坤一擲の大攻勢を行い、テクシートの本拠地である宇宙要塞を強襲し、テクシートの皇帝を打ち取った事。そして相打ちとなり死んだ事。


 「全て……思い出した!」


 レンヤ・アビントンこと三方ヶ原みかたがはら 結城ゆうきはそんな前世を思い出していた。


 ……殺人的な加速を掛けた航空機の中で。


 「うおおおおお!!!?」


 そう、殺人的な加速により、走馬燈が走ったおかげでどうやら前世の記憶が蘇ったようであった。


 ≪三方ヶ原くん!大丈夫かね!?≫

 通信が入る。有り難い事に通信方法や今世の記憶は引継ぎで覚えている。


 「この程度のG……屁でもねえええええええ!!!!」


 そう叫びながら結城は急上昇。

 機体はグングンと高度を上げて……雲を突き抜ける。


 「かはぁ……はぁはぁ……!!大気圏内の機動がこんな過酷なGになるだなんて……!」

 結城はそう虫の息で呟く。

 眼前にはダークブルーな空……一気に成層圏まで来てしまったようだった。



 確かに前世のレンヤ時代に過酷な訓練を味わったが、これ程の高Gは中々経験したことがなかった。


 ≪結城くん!無事だったのかね!?≫

 「ああ、向風博士。俺もこいつも無事だ。だが、こいつの加速は凄まじいものだ……」

 結城は通信に答える。

 通信相手は向風むかいかぜ優吉(ゆうきち)という名前の高齢な博士である。


 ≪まぁそうだろうね。そのティラン号は名前の通りの暴虐な奴だからね≫

すると別の通信が入る。ティランとは古い言葉で暴君と言う意味があるらしい。


 「綾川博士。その名前はやっぱりどうかと思います」

 ≪それは向風博士に言ってほしいよ≫

こちらの通信相手は綾川 彩未あやかわ あやみ博士である。女性である。胸も豊満である。


 ≪とにかく、君が無事でよかった。君のお父様とは旧知の仲でな。もし何かあれば申訳が立たなかった。いやあ無事でよかった。試験は無事合格だ≫

 ≪こちらとしては実質的にコネで採用してしまう事に思う所があるけど、まあそのティラン号の加速でも乗りこなせる様だから何も言うまいよ。三方ヶ原 結城クンだったけ? 歓迎するよ≫


 「(そういや俺、高校出て就職失敗して、藁にもすがる思いでこの試験にチャレンジしたんだったな……)」

 苦笑いをしながらそんな事を思い出す結城であった。



     ※        ※


 結城はティラン号を無事に研究所まで戻し、整備士の指示の元コックピットから出る。


 デッキから降り立つとそこには向風博士と綾川博士が迎え出る。


 「良く戻った。結城くん。あれ程の超加速に耐えたのは君が初めてだ」

 「うんうん。中々いいデータが取れて良かったよ」


 二人は何気にサラッと怖い事を言う。


 「あの加速に耐えたの俺だけ……うへぇ。そんな危ない奴に俺は乗せられていたのか……」

 「うむ、全てはペンドラニウム合金とそのエネルギー炉の真価を発揮させる為だ」

 「それにしても結城クンは素晴らしい。プロトティラン号の時は前任者が病院送りになる等、大変な事になってしまったのを踏まえるに、その特異さは筋金入りとも言えるね」


 さらに怖い事を言う綾川博士。その表情はどこかほんわかとしている。


 「そいつが例の依怙贔屓(えこひいき)か?」

そんな会話をしていると、奥の方からやってきた一人の男性が非友好的な態度でそんな事を言う。


 「親のコネで受かったようだが、ここじゃ1日と持たねえからな?」

 「やあ健斗クン。この子は三方ヶ原 結城。依怙贔屓なのは認めるが、ティラン号をトップスピードまで出して成層圏まで行った猛者だよ」

 綾川博士が健斗と呼ぶ男が気にくわない。とばかりに喰って掛かる様を見かねて説明を行う。


 「ふん……え? あのティラン号を?? この高卒が???? トップスピードで????」

 一瞬突っぱねるが、事の重大さを知る健斗は素っ頓狂な声を上げる。


 「彼は堀野川(ほりのかわ) 健斗(けんと)君だ。彼はリュクシオン号のパイロットだ」

 「……お前さん。何があったかは知らんが……まぁ頑張れ」

 向風博士の紹介に、先ほどとは打って変わって憐れむ様子で答える健斗。


 「え、あのティラン号ってそんなヤバイ航空機だったのか?」

 「ヤバイ航空機って……お前そんな事も知らずに乗ったのか!?」

結城の言葉に声を荒らげる健斗。

 「悪いのかよ!?」

 「いや、よく死ななかったな!? と驚いてるんだよ!博士。やっぱり安全基準見直した方がいいですってば!!」

何やら労働法あたりを気にする健斗。

 「しかしそれではペンドラニウム・エネルギーの真価が……いや、やはり一度見直す他ないか?」

 「一応、現時点でも生命維持装置は作動するし、自動運行機能もあるからここへは帰っては来れるけどねぇ」

と、博士二人はどこ吹く風とばかりに答える。

 「いやいやそんな!死亡事故が起きてからでは遅いんですよ!?」

 すかさずツッコミを入れる健斗。

 

 「おい結城!お前もなんか言えよ!」

お前安全基準法守らない所で働く事になるんだぞ、とばかりに話を振る。


 「え? ああ。えっと、じゃあ、さっきから向風博士の言うペンドラニウムってなんだ?」


その言葉に三人の動きが止まる。


 「あれ……俺、何か言っちゃいましたか?」


 その言葉が虚しく三人の耳に届くが何も言えない。


 健斗は「この馬鹿……本当になんで生きてるんだ……?」という顔で。

 綾川博士は「あれ、説明してなかったっけ?」という顔で。

 向風博士は「さてどこから説明するか」という顔で。


 時間だけが虚しく流れていく……と思われた。


 「ふふっ。本当に面白い人ですね」


 そう女性の声が聞こえ、見上げるとそこには二階の通路にこちらを見ている女性がいたのだ。


 「よっと」

 そう言って二階から飛び降りる女性。


 すとんと、落ちる。


 「え……ホビエルフ……?」

 結城は驚愕する。明らかに並みの人間より小さかったからだ。


 結城の記憶にはこの世界の情報はもちろんあり、驚くべきことにが存在するのだ。

 人間以外の人類の一つ、ホビエルフとされる種族は成人を迎えても最長150cmを超えない種族だとされている。


 一体どういう理屈なのか皆目見当もつかないが、この世界の人類は、直感で相手のホビエルフが成人してるかしてないかがわかるのだ。



 「ええ、申し遅れました。私の名前はヴィオラ。ヴィオラ・P=マゾビーアと申します。歳は今年で二十歳となります」

 彼女、ヴィオラはそう華麗な挨拶を行う。彼女は今、他の研究員と同じ白衣であるが、スカートがあればまるで貴族のような貴賓さがあった。


 「彼女はドラコーヴァ皇国から留学してきたエネルギー学を専攻にしている大学生だ。まぁ見ての通り古い貴族の出だ。彼女も研究に加わっている」

 向風博士が紹介をする。

 「嫌ですわ。私は領地も持たぬ平貴族ですよ」

ケラケラと否定するヴィオラ。


 「さて、ミカタガハラ・ユウキさんと言いましたね? 折角だから場所を変えて説明を致しましょう。御ふた方もそれでいいでしょうか?」

ヴィオラは博士二人に尋ねるように言う。


 「ふむ、それがいいだろう」

 「そうだね。そうしよう」


満場一致で場所を変えて説明を受ける事になる結城。


 「なんで俺が……」

と巻き添えを食いそうでいやがる健斗。

 「ケントさんもどうぞ」

ヴィオラはそう健斗に促すように言う。


 「いや、俺は……」

 「ご自分だけだとでも?」

健斗の耳元でヴィオラはそう囁く。その目は氷のように冷たい。


 「!?」

何か思う所があるかのように驚く健斗。

 「お互い様でしょう? さ♪行きましょう♪」

一転してルンルン気分のような口調で健斗の手を引いてミューティングルームへ連行する。


 つづく。

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