第18話 花鳥風月

深夜の独演会のそのさなか

どこかから聞いたことのある声の一群

その記憶が想起されるや否や

わたしは光速で商店街の路地の暗がりに身を隠す


陰からそっと覗いてみると

そこには五人の女生徒たちが歩いている

ある者は笑顔で ある者は笑顔でない

こんな夜分に何をしている

その女生徒たちは

二年前 わたしが中学一年生の頃の

同級生だ


心臓がものすごい速度で鼓動する

緊張の中で彼らを見送る

何も気づかず歩き去る

路地裏のわたしなど視界には入らない


商店街から消えるのを確認すると

わたしは激しく安堵し

同時に自らへの怒りと嘆きと落胆に塗れる

何をしたわけでもないのに

いわれのない羞恥を感じ

羞恥を感ずる自分をさらに羞恥する


同世代の笑い声は たまらなく怖い


思えばいつも わたしの脳を占めるのは

関係性のことばかりだ

母との関係性

父だった者との関係性

同級生だった者との関係性

世間との関係性

そりゃ苦しくもなるだろう


道に咲く花や

頬をなでる風や

照らす太陽や

照らされ照らす月や

形を変幻する雲や

すなわち花鳥風月を

感ずる感受性が欲しかった

その感受性さえ備えていれば

この関係性の呪縛から解放されていたろうに


結局わたしは現代っ子だ

関係性を忌避しつつ

関係性の中でしか生きられない


自然に癒されることができる

そんな人間でありたかった

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