第17話 モーツァルト

たまにわたしが早くに起きて

中宮冬子(母)の仕事が休みの時は

二人してリビングにて静座し

真ん中にポータルCDプレイヤーを置いて

互いに片方ずつイヤホンを分け合い

音楽を聴く


我が家にあるCDは一枚だけ

モーツァルト交響曲41番

父が置いていったものだ


だった一枚のCDであっても

わたしはこれを聴くことで

普遍の美を再確認することができるし

これがあるなら

明日もとりあえず生命活動を続けようと暫定の決断はできる


モーツァルトの

おそらくは本人の人格から遊離した天性は

自らの魂を蝕んだろうが

聴く者の魂は救済する


日常の生活の苦労に疲れ切った母は

イヤホンをしながら こっくりこっくり

モーツァルトの波長で夢の中に誘われている

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