第16話 マンションデベロッパー
まだ小学生だった頃
父方の従兄の男に会った
歳はわたしより一回り以上うえで
やや色黒で肩幅が広く
薄い笑みを浮かべて
強迫的清潔さを帯びたスーツを着て
どこぞのブランドの鞄を手に持ち
『最近仕事はどうだ』と父に聞かれ
『いやあ 叔父さん 全然ですよ』
などと 棒読みの返答をし
余裕の うわの空だった
彼はマンションデベロッパー
何が混ぜられてるともわからない コンクリートの隔壁で
空間を人工的に区分けして
ブランディングで売りさばく
『お前自身は何階に住んでるんだ』と問う父に
『叔父さん マンションなんかに住むわけないじゃないですか』
とさらりと話す彼
ファストフードのチェーンでバイトをしたら
一生 フライドポテトを食べる気が失せるという あれだ
土地もはなはだわからないが
土地からも遊離した ただの空間に
生涯の労働対価の半額に迫る金銭価値が付くことは
さらに理解を超えている
コンクリートが分かつ空間は
すなわち文化的空洞ととらえる
空っぽに見える
空っぽだから魅力があるのかもしれないが
ルサンチマンということなかれ
空っぽであるが故の原動力は
古来この国のお家芸で
是非もないのだ
『冗談ですよ 叔父さん』
はははと笑い やけに白い歯が見えた時
わたしは彼を 反射的に嫌悪した
正確に言うならば
彼に象徴される空洞を嫌悪した
『あげるよ うたこちゃん』
去り際に わたしの名前を間違え
駄菓子が大量に入った袋を手渡してきた
わたしは無言でその袋を受け取り
その夜にありがたく むさぼり食べた
彼はマンションデベロッパー
今日もどこかで 無を提示しているはず
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