第15話 東京

一千万を超える都市圏の

蟻塚のような団地の一角に

わたしの住処がある


『ここではない どこかへ』

と思う多くの若人の夢を吸い上げ

この街は成り立っている


トーキョーなる幻想を追ってみるものは

空洞としての洗練と

空洞であるが故の文化的エネルギーと

異様な距離感で見る多くの他者たちと

身体性と等価交換で得る職務と

価値なるものの逡巡である


父も幻想を追った一人である

父の地元は首都圏から新幹線と特急を乗り継いで

七時間かかる人口十万に満たない街だ


ローカリズムに希望があるとは思わない

父の帰省についていった際に見た街の光景は

まさに地方国道沿い的絶望の吹き溜まりだったからである


とはいえ都市化は過剰となれば

それは人体でいうところの

脳を後生大事に 肝腎疎かにして

気付いたらお陀仏という予測は容易に成り立ち

何事もバランスだという当然に帰結するのだが

当然であるが故にバランスは極めて困難だ


母は東京の貧困家庭で育ち その場所から出たこともなく

それ故のトーキョーなる幻想を持たない

ただ 場所とは異なる性質の

より歪んだ『ここではないどこかへ』の心象の持ち主であり

それがたまらなく わたしを苛立たせる

わたしもまた『ここではないどこかへ』と焦がれる一人だからである

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