第4話 ベンゼン環の不安


わたしは今日も あてどなく電車に乗る

入場券でホームに入って

車両に乗り込んだら

上りと下りを延々と行ったり来たりだ

窓から見える街並みが 水平に素早く過ぎていく

ふと不安を反芻する

何が不安とも言い表せない

漠然とした不安

暗黒の宇宙を一人重力から解放されて漂うような

そんな不安

不安は折り合えない隣人である

馴染みだが 親しむことはない

不安なとき わたしは自身の終焉に思いを巡らす

穏便に終焉を受け入れられるような

自己解放に取り組みたいが

そんな才覚はなく

わたしはおそらく

今日と同じ 抑揚のない日常と

あるいはひょっとしたら 非日常的疼痛などを感じながら

終焉を迎えるのだろう

この世に存在する多くの人と同様に

誰かにこの日常の檻から連れ出して欲しいが

自由は外にはなく

内面にしか成就し得ないことを

わたしは母を見て知っている

そして内面の自由を得るには

わたしにははなはだ資源が足りないのだ

電車の緩慢な往復の中で

わたしは今日もベンゼン環のような

出口なき思考を ぐるぐる回す



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