第3話 効率化と小市民

 効率よう 効率よう

 三年前にいなくなった父の口癖だ

 先細る国家 限られた資源

 それを超えたとて 待ち受けるグローバルの競争

 迫りくる淘汰圧

 センタクとシュウチュウ 

 小市民とて その影響は避けられないのはわかる

 だから父は言ったのだ

 効率よう 効率よう

 わたしはとても非効率だ

 遠回りして 遠回りして 

 ようやく納得する 腑に落ちる

 それで何か前進するでもない 

 腑に落ちるまでである(でも 腑に落ちるは替えがたい快楽である)

 でも どこかの誰かがさかんに言うように

 効率をどこまでもつきつめていけば

 それは無なのではなかろうか

 こんな非効率で複雑系の世界で生きるくらいなら

 生まれてこないのが 一番効率的だ

 生まれてくることのない すべての存在に祝福を捧げたい



 コントロール願望というものがあるでしょう

 とても危険なものだ 

 他人は彼岸 コントロールできないもの

 でも願望を持つのが人の性 

 わたしとてあるのだ

 どうにもならないが どうにかしたい存在

 コントロールは些末なところに現れる 

 生活の細部に現れる 

 例えばお風呂だ

 お風呂一回入るのも難儀な 中宮冬子(母)

 なんどもなんども促して ぴくりとも体を動かさず

 最後にどうでもよくなった頃合いで 

 ようやくのそりと身を起こし

 濡れたタオルで体を拭く母

 対象への苛立ちと 苛立つ自分への苛立ちと

 やり場のない無力感が胸を覆うのだ

 他者がありのままで居て 

 他者がありのままに生きることに

 寛容な自分が欲しいよ

 他者に寛容になれないのは

 自分がありのままで生きられないことの 証左でもある

 今夜も月はやけに明るい

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