第4話

 清水さんの話した“誰にも言わないで欲しいこと”とは、はっきりいって誰かに話したとしても、到底誰も信じてくれなさそうな内容だった。

 目の前で実演してくれてもまるで夢のようなことで、聞きながら変な顔をしてなかったかすごく気になってしまう。

 

 曰く。清水さんは、“ガラスを食べる一族”らしい。


 父親がその一族の出身で、清水さんもそういった体質に生まれてきたそうだ。近年はガラスのみを食べる人は少なくなってきていて普通に食事をする人もいるそうで、清水さんの弟はガラスを食べられないらしかった。

 事情を話しながら彼女は観念したようで、時々ビー玉を摘んでいる。ぽりぽりと食べる様子は、昼休憩にスナックを一緒に食べているようにも見えるが如何せん彼女が噛んでいるのはガラスの玉なのだ。わたしは昼ごはんを食べ損ねているのにと、勝手についてきたのに理不尽に感じた。

「個人差がね、あるの」

 綺麗な手がビー玉を一つつまむ。そのまま、わたしと彼女の顔のちょうど真ん中にガラス玉を持ってきた。

 黄色と白が混じり合ったガラス玉は、窓から差し込む日光に当たりより一層輝いて見える。

「個人差? なんの?」

「食べられる範囲の」

 にこりと笑って、光にかざしていた黄色いビー玉を口の中に放り込む。本当に自然に食べるから、あれがガラスだと知らなければ飴だと思いこんでいるだろう。

「ガラスだけの人もいれば、普通の食事だけの人もいる。どっちも食べる人ももちろんいるの」

「……清水さんは」

「わたし? わたしはガラスだけ。……正確には食べられないこともないんだけど、美味しくないんだよね」

 言っていることの意味がよくわからずに、彼女の顔を正面から見る。小さく笑って清水さんは続けた。

「普通のご飯は味がしないの。だから、あんまり食べたくなくて」

 それを聞いて納得した。だから打ち上げには参加しなかったのかと。そういえば文化祭なんかもクラスの展示当番の時以外はどこかにいっていたみたいだったと思い出す。屋台を物色したりもしないんだろう。

 気づいたことには触れずに気になったことを口にした。

「ねえ。ガラスってどんな味?」

 考えるように視線を落として、清水さんが黙る。無意識なのか少し唇を突き出していた。

「……このビー玉は冷たくて、ちょっと甘くて酸っぱい感じ、かな」

 わたしの反応を伺うようにこちらを見る。

「あんまり、みんながどんなふうに感じているものなのかわかんないんだけど」

「……そっか」

 わたしが大した反応を返さなかったからか、彼女は安心したような顔をした。その顔は今まで見た中で一番柔らかい顔だった。

「誰にも言わないよ」

 初めに確認されたことを、もう一度繰り返した。今度はわたしが念を押すように頷いてみる。

 滑稽に見えるほど真剣な顔をしていたと思う。自分の顔を想像すると恥ずかしいくらい。でも、清水さんはそんなわたしを笑わずに笑顔を返してくれた。

「ありがとう」

 さっき彼女が食べていた黄色と白の綺麗なビー玉。

 あれはきっと、彼女にとって甘くて酸っぱいレモンミルクみたいな味なんだろうなと思った。

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