第2話

 わたしがドアを開いたまま棒立ちになっていると、清水さんはモグモグと口を動かし始めた。あまりに自然な動作に一瞬、あれはビー玉ではなく飴玉だったのかと思ったが、残念ながら聞こえてくる音はそんな生やさしいものを噛み砕く音ではない。

 がりしゃりと、飴なんかよりも絶対に硬いものを噛んでいる。しかも、彼女の机に目を向けると、100円均一でよく見るビー玉の入った網の袋が置いてある。“懐かしのおもちゃ”というタグまでついているんだから、あれがガラス玉という動かぬ証拠だ。

 間違いなく、あれはビー玉。

 彼女はビー玉を食っている。

 しばらく呆然と見つめ合う。躊躇いなくモグモグし始めたからわたしのことなんて気にしていないのかと思ったけど、口の中のものを飲み込んだ表情は気まずげというか、苦笑いだった。

 かける言葉は見つからない。目の前で起こった衝撃的な食事に、落とし物を届けようとかいった最初の目的は忘れていた。

 沈黙に耐えられず、苦し紛れに純粋な疑問を口にする。

「……清水さん。何食べてるの……?」

 パチリと瞬きをする清水さんは、やっぱり美少女なんだなと現実逃避に近い考えをもつ。

「びーだまおいしい……?」

 その質問を声に出したとき、彼女は諦めたように力なく笑ってわたしに手招きをした。

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