第2話
わたしがドアを開いたまま棒立ちになっていると、清水さんはモグモグと口を動かし始めた。あまりに自然な動作に一瞬、あれはビー玉ではなく飴玉だったのかと思ったが、残念ながら聞こえてくる音はそんな生やさしいものを噛み砕く音ではない。
がりしゃりと、飴なんかよりも絶対に硬いものを噛んでいる。しかも、彼女の机に目を向けると、100円均一でよく見るビー玉の入った網の袋が置いてある。“懐かしのおもちゃ”というタグまでついているんだから、あれがガラス玉という動かぬ証拠だ。
間違いなく、あれはビー玉。
彼女はビー玉を食っている。
しばらく呆然と見つめ合う。躊躇いなくモグモグし始めたからわたしのことなんて気にしていないのかと思ったけど、口の中のものを飲み込んだ表情は気まずげというか、苦笑いだった。
かける言葉は見つからない。目の前で起こった衝撃的な食事に、落とし物を届けようとかいった最初の目的は忘れていた。
沈黙に耐えられず、苦し紛れに純粋な疑問を口にする。
「……清水さん。何食べてるの……?」
パチリと瞬きをする清水さんは、やっぱり美少女なんだなと現実逃避に近い考えをもつ。
「びーだまおいしい……?」
その質問を声に出したとき、彼女は諦めたように力なく笑ってわたしに手招きをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます