十一の月と二十七日目


 国立リアド大学医学部魔法学科四年 ルウネ・マルエージング


 二日間開かれるお祭りの、今日は一日目。私は、お隣に住んでいて、恋人のラーイアと一緒に出掛けた。

 毎年、お祭りの日は町の外や国の外から観光客が来てくれて、人通りが十倍にもなる。みんな浮かれていて、すごく楽しそうで、その雰囲気が、私はとても好きだった。


 ラーイアとは、恋人になる前、お互いの小さい頃から一緒にお祭りに出掛けていた。一年の中で、お祭りの日が一番好きと、初等部の時の彼はそう話していた。だけど、今日は無理矢理にでも楽しもうとしているのが見えてしまい、気がかりだった。

 私が、卒業後に隣国に進学するのだと話してから、彼の気持ちは落ち込んだままだった。私だって、離れ離れになるのは寂しい。でも、それを嘆くのは、まだ早い気がする。


 だから私は、今日の内で、彼に元気を出してもらおうと決めた。「三角帽子」のおいしいチュロスを一緒に齧って、「翠の石」という魔道具屋さんが売っている青い炎の蝋燭に目を輝かせて、メダカ掬いに夢中になった。

 色んなものを食べて、一緒に遊んで、商品や買い物で、両手はいっぱいになった。でも、ラーイアはまだ暗い顔をしている。私が頑張れば頑張るほど、気分が沈みこんでいくようで、もうお手上げだった。


 その内に、花火が上がる時間が近くなった。人でごった返していたけれど、運河のベンチに座ることが出来た。彼は、花火が上がる前にお手洗いへ行った。

 林檎飴を舐めながら、ぼんやりラーイアを待つ。彼が落ち込んでいる理由。それは、私の進学だけが原因ではないような気がしていた。


 魔力が無いことを、ラーイアは恥じている節があった。子どもの頃、私が学校で習った魔法を披露すると、彼は目を輝かせて拍手をしてくれたが、その後、ちょっとだけ寂しそうな顔をした。

 今思うと、自分の浅はかさを思い知らされる。私は、ラーイアを喜ばせたかったけれど、それは同時に、彼を傷つける行為だったんだ。


 目の前で、ひょろひょろとした閃光が、上へ登っていく。それはぱっと開いて、真っ赤な花を咲かせた。

 どんと、胸に響くような音に交じって、「ルウネ」と、後ろで微かな声がする。


 振り返ると、ラーイアが立っていた。目が、泣きはらしたように真っ赤だった。

 ごめんね、僕は結局、魔法が使えないままなんだ。……そう言った彼を、私は思いっきり抱き締めた。


 魔法が使えなくてもいい。私は、あなただから、好きになったんだ。ラーイアの耳元で、そう訴える。

 離れ離れになるのは一瞬だけ。私達なら、そんなのへっちゃらよ。今度は、ラーイアのほっぺを両手で引っ張りながらそう言うと、彼は涙を零しながら、へへっと笑った。


 何発も、上がって開いていく花火を、二人で並んで眺めていた。いつの間にか、手を繋いでいて、私ははっとした。

 手を繋ぎながら歩けば良かったね。悔しさを滲ませながら言うと、ラーイアは、察しの悪い私の頭を、くしゃくしゃっと撫でた。


                 おわり






 メモ


 ラーイアさんの、自分のことを責めるような日記の後、二人はどうなったんだろうと思っていたから、仲直り(?)出来たみたいで本当に良かった。

 でも、私があれこれ考えて、心配する隙も無かったのかもしれない。二人は大好きだという気持ちで繋がっていて、そこにはどんな邪魔も意味がないようだ。


 そう言えば、私もお祭りなので、ちょっと町に出ることが出来た。短い時間だったけれど、「三角帽子」のチュロスとあの青い炎の蝋燭を買うことが出来て、満足している。

 ここに、ジェーンとアルベルトがいたら……なんて思ってしまうけれど、仕方がない。二人は二人の旅を続けていくのだから、こういう場合でも、私が心配しすぎるのは、多分野暮なことだろう。


                 ノシェ









































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