十一の月と十五日目


 空中バス運転手 テット・クミオター


 週の初めは、利用客が多い。朝一番の便は、この時だけ満席になる。

 そうは言っても、路面電車を利用しようとして、乗り場で行列を作っている人たちを見下ろしていると、優越感が出てくる。多少値が張っても、週に一度ぐらいは贅沢をしたいと思う人が多いのだろう。


 客を見ると、本当に多種多様だ。しかし、みんな急いでいるという共通点だけがある。

 伝達水晶を取り出して、「先生」に向かって小声で懇願している女性。ドアが閉まる直前に滑り込んできた男性。中には、寝ている間に乗り過ごしてしまい、おろおろする男子学生や、酷い寝癖の女学生もいて、学校に間に合うだろうかと心配になるほどだ。


 だけど、悪いことばかりではない。中には心温まる瞬間を目にすることもある。

 一つの席を守っていた青年が、あとから乗ってきた少女に席を譲り、その後に談笑している場面。「パパが、久しぶりに帰ってくるんだー」と、嬉しそうに隣の老人に話す幼い少女。魔道具店で働いている娘が、とても可愛いのだと友人に力説する少年。


 王女様ほどではないが、僕も、この町に暮らす沢山の人の人生を、垣間見ているのだと感じる。

 今日も一日、安全運転で終えられた。明日もまた、何事もなく過ごせるように。


                 おわり






   ***






 メモ


 空中バスが運航されてもうすぐ三十年。すっかり町民の足になっている。

 運転手が魔方陣に魔力を注ぐことで浮かび、動かせる仕組みで、機体はタイヤのない路面電車と似ている。運転席も、路面電車と同じように前の窓の上が鏡張りになっているので、お客さんたちの様子がよく見える。


 テットさんは、今年度から運転手として働いている。空中バスは路面電車よりも細かな運転技術が要求されるので、すごく気を遣う仕事だけど、いい意味で、余裕が出てきたみたい。

 私も何回か利用したことがある。家々の屋根くらいの高さの停留所に向かって降りていく瞬間は、ちょっとドキドキする。


 テットさんもお客さんの様子を観察しているけれど、私なら、それが誰か誰なのか分かってしまう。

 セィシル先生、また駄々をこねているのかなぁとか、ソミーさん、お休み取れたんだなぁとか、ジェーンはすでに人気者だなぁとか。それぞれの顔が浮かんで、微笑ましく思う。


 ひっそりとした夜の寝室。町からの音は殆どしない。

 また明日、町のみんなが、平穏な一日を過ごせますように。


                 ノシェ































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