十一の月と十一日目


 魔道具店「翠の石」店主 ヒライト・アマルガム


 今日は、新しい店員の初出勤だった。彼らは、この町の外から来た旅人で、しばらく滞在する間、ここで働きたいと、先日来たところだった。

 年齢は、十代の少女と少年で、少女はジェンスエトといい、少年はアルベルトと言った。


 ジェンスエトことジェーンは、魔法が使えるため、道具の整備の仕事が出来るが、逆にアルベルトは全く魔法が使えなかった。魔方陣が刻印されているため、開くだけで使える紙も反応しないほどで、とても稀有な体質だと言える。

 ただ、アルベルトの体質は、むしろ重宝される。棚に魔道具を並べる時に、誤作動を起こさないからだ。


 ジェーンは丁寧な話し方と物腰の柔らかい態度なので、接客にはとても向いている。一方、アルベルトは無口で、笑顔も固かったので、彼には棚卸しや倉庫の整理を中心にやってもらうことにした。

 しかし、アルベルトはそれに対して、不服そうだった。口には出さないが、ジェーンの方に意味深な視線を投げ掛ける。まあ、仕事はちゃんとやってくれたので、よしとするが。


 本日の客は数名だったが、彼ら全員がジェーンのことを気に入った様子だった。老若男女関係なく、緩んだ表情でジェーンとやり取りしている。

 確かに、ジェーンの愛くるしい見た目は、非常に看板娘向きである。働くのが一時だけなのがとても惜しいほどに。


 アルベルトも……淡々と働き、物覚えもいい方なのだが、一つ困った点が。

 ジェーンと話し込んでいる客を、じっと睨む癖があるのだ。これにより、居心地の悪くなった客が、そのまま帰ってしまうこともあった。

 まるで、ジェーン専門の騎士のようだ。


 二人がここにいることで、客数は結局変わらないのかもしれない。


                 おわり





   ***






 メモ

 

 「翠の石」の店主・ヒライトさんは、若くてとても野心に満ちた青年だ。ただ、それによって、空回りしてしまうこともあるけれど……。

 それから、ジェーンとアルベルトの仕事が見つかって良かった。初出勤も、まずまずの滑り出しのようだ。


 ただ、アルベルトの態度は、ちょっと難があるみたい。実際、彼はジェーンを守る騎士なのだから、目を光らせるのも仕方ないけれど。

 そう言えば、二人と対面する日が、次の安息日に決まった。二人は、何を見てきて、誰と出会って、どんな話をしてくれるのだろう。安息日が、とても待ち遠しい。


                 ノシェ
























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