十一の月と四日目


 旅人 ジェンスエト・ティ・ロレニトレ


 二日間森を彷徨い、私達は大きな城を囲む一つも町に辿り着きました。

 警備の方に怪しまれながらも、無事に街の中に入れて、ほっとしました。


 宿を見つけて、食事をしたり、お風呂を入ったりした後に、二人とも、森を歩き回った時の疲れと、屋根のある場所にいるという安堵感から、日の高いうちから横になり、すっかり眠りこけてしまいました。

 目が覚めると、翌日の朝になっていました。そのため、日記を書くのは失念していました。すみません。


 ただ、森の中を彷徨っている間は、気が気ではなかったのです。狼や熊が現れるかもしれないと、私達はびくびくしながら進んでいました。

 初めて森の中で野宿した夜、遠くの方でバサバサと、何かが飛ぶような音で目が覚めました。隣で寝ているアルベルト――私と同行してくれる少年の名前です――を起こして、天幕から出ました。


 音のする方を見ると、星明りに照らされて、たくさんの白いものが、地面から聳える何か大きなものを中心にして、円を描くように飛んでいるのが見えました。まるで、真っ白な竜巻のようです。

 しばらくして、その白いものは見えなくなりました。アルベルトと相談して、私達は大きな何かがある方へ向かうことにしました。


 そこから一日歩いて、私達はこの城を見つけました。しかし、その時は日が沈んでしまい、城下町の門は閉ざされてしまっています。私達は、門のそばで野宿することにしました。

 前の晩に見た白いものの正体は、夜が更けてから発覚しました。それは、鳥のように羽ばたく、いくつもの白い紙だったのです。


 紙は、城の周りをぐるぐる回り、どこかへと吸い込まれていくようでした。私達は、ぽかんと口を開けて、その様子を見上げていました。

 私に分かったのは、あの紙には魔法が掛けられていて、それによって飛んでいるということだけでした。その由来は、翌朝、警備兵さんたちが教えてくれました。


 私は、呪いをかけられた王女様に、同情よりも、共感を抱きました。私も、理不尽な理由によって、訳も分からないまま国を出ることになったからです。

 年齢も、同じだと聞きました。旅人は王女様とお話をする機会があるというので、その時が待ち遠しいです。


 私は、こうして日記を書いていますが、アルベルトは書かないと言っていました。なので、彼のことも、少し紹介しようと思います。

 アルベルトは元々私の国の騎士で、一つしか年も変わらないのに、私のことを命がけに守ってくれます。彼には、私と旅する理由はないはずなのに、ずっと一緒にいてくれます。


 アルベルトは、自分の選択を後悔していないかと訊いてみたいです。しかし、彼はきっと、「後悔していない」と答えるはずです。それが本心でも、嘘でも。

 私は、アルベルトのことを、大切な友達だと思っています。でも、アルベルトは私の従者だという意識はずっと残っていて、敬語を辞めたり、「ジェーン」というあだ名で呼んでくれるようになったのも、つい先月からです。


 いつまで滞在するのか分からないのですが、この町にいる間に、彼との距離が、ちょっとでも近づけたらいいなと、そう思っています。


                 おわり






   ***






 メモ


 昨日届いた日記の中には、旅人さんたちのものが無かったので、どうしたのだろうと思っていたら、ちゃんと理由があったみたいだった。

 ジェンスエトさん――誰にも見られていないから、こっそりジェーンさんと呼んでいきたいと思う――ジェーンさんたちも、大変な道のりだったらしい。


 いつも城にいるから、みんなの日記がどうやって集まってくるのかは知らなかった。町の人たちは慣れてしまっているから教えてくれなかったけれど、ジェーンさんの日記のお陰で、そんな様子なのか想像することが出来て嬉しい。

 それにしても、ジェーンさんはどうして国を追われてしまったのだろう? アルベルトさんが騎士だったということは、ジェーンさんも位の高い人なのかな? 気になるけれど、あまり詮索していいのかもよく分からない。


 また、ジェーンさんがアルベルトさんに抱いているのは、本当に友情だけなのかなということも気になる。こういうことをせっつくのは、下品だと思うから、ここにし書かないけれど。

 ジェーンさんとアルベルトさんが、もっと仲良くなりますように。


                 ノシェ






























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