十一の月と三日目


 境界警備兵 ソミー・ラントル


 朝日が昇る前に、町の入り口である門を開けると、目の前に人が二人立っているのが見えて、酷く驚いた。

 危うく、腰を抜かしそうになったのは、隣にいた同期のフオジアには秘密だ。


 一人は、金髪で頬に横向きの傷のある少年と、長い銀髪を三つ編みにした少女だった。歳は十七か八くらいだろう。

 二人は、この町にしばらく滞在したいと言っていた。いつまでなのかと尋ねると、それは分からないと返されてしまい、こちらはとても困った。


 その二人から少し離れたところで、フオジアと長いこと話し合った。怪しい所は確かにあるが、まるで捨てられた猫のように不安げな表情をしていたので、追い返すことも出来ない。

 ともかく、噓発見器にかけて、やましい心がないかどうかを確かめることにした。これは大分古いものなので、魔法で数値を狂わせることは出来るが、怪しい動きが見えたら、俺が無効化魔法を唱えることに決めた。


 結果、二人は、人に話せないような事情はあるようだが、悪事を働くつもりは全くないということが分かった。俺たちは、二人が町へ滞在することを認めた。

 宿場に付いたら、王女様への日記用の紙を貰うようにと、俺が説明すると、二人にどういう意味かと尋ねられた。まさか、この国にいる人物で、王女様の呪いのことを知らないものがいたのかとまた驚かされた。


 どうやら二人は、世界中を転々としているので、この国にも、着いたばかりらしい。フオジアが、王女様の略歴を話した。

 それを聞いて、目の色が変わったのは、少女の方だった。大変だったのでしょうねと言ったその顔には、同情以外の気持ちが籠っているように感じる。


 王女様は、町に滞在する旅人を招いて、話をしているということを説明すると、少女の表情が綻んだ。「お話するのが楽しみです」という顔には、王女様への敬意よりも親しみが込められているようで、ちょっと気になる。

 ともあれ、俺たちは二人を見送った。二人は常に気を張っている様子だったので、ここで健やかに過ごせたらいいなと、その背中を見送りながら、フオジアと話した。


                 おわり






   ***






 メモ


 いつも勤勉で、すごく大変な境界警備の仕事をしているソミーさんには頭が下がる。何もせずに立っているだけだと、私なら、きっと十分も経たずに気を失ってしまうだろう。

 境界を尋ねる人のことを、ソミーさんはこまめに書いてくれる。誰が来てくれるのか分かるので、私は、ソミーさんの日記をいつも早めに読んでいた。


 新しく滞在することになった二人の旅人のことが気になる。十代の二人の男女だけで旅しているなんて、初めて聞いた。

 二人はどうして旅をしているんだろう? どこから来て、どこに行くのかな? 二人の関係は? そんなことをくるくる考えると、とても楽しくなってしまう。


 さっき、マイルニさんに、私の今後のスケジュールを確認して、私の空いている時間を割り出してもらった。

 近いうちに、二人に会いたいと思っている。

 

                 ノシェ



































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