第四十三夜『土と城の噺』

「さて、本日も語って参りましょう。え?もっと聞きたい?」


「聞き違いですか。まぁ、あなた様に捧げるはこの四十三夜」


『土と城の噺』

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 むかしむかし、西の大陸に広大な領土を持つ国がありました。土地は広いといえど、そこに住まう人々の数はそこらの小国と変わりありませんでした。


「どうしたらいいものか……我が国の領民は少なすぎやしないか。領土だけは広いのになぁ、どういうことだ」

「領民は小国と数が変わらん。それはつまり、密度がないということを指す。隣国からの侵攻があった場合は一人残らず殺されるか、いいところ捕虜となってしまうだろう」


緑豊かで自然溢れるその国は領民たちは皆笑い、兵士たちも張り詰めた空気ひとつも持たないような牧歌的な暮らしをしていました。

 国王はある日考えつきました。平和な暮らしを守り、この自然を守るために何をすればいいのかを。


「農作物を売れば良いのだ。開墾し、耕せ。緑が豊かであるということはこの大地は肥沃であるということだろう?」

「隣国に農作物を送りつけてやろう。周辺諸国に送りつけて奴らの胃袋をつかんでおけ。それならば、食糧庫となる我々を攻撃してこようという輩もいないだろう」


ただ、ひとつだけ問題がありました。この土地に暮らす人々の半分以上は農民です。自分の農地があるのに新たに何十、何百倍の農地の開発は到底不可能でした。

 そこで、国王は周辺諸国に食料を渡す代わりに優秀な者をありったけ貸して貰えるように交渉しました。


「はっはっは、馬鹿共が。お前たちは食料による生死を我々に握られているのだぞ。それなのに人員を送り込んでどうする?戦力が削れているぞ」


 王はそんな感情を腹のなかに隠しながら収穫された野菜と果物をつまみます。


「うむ。うまいな。このパンも我が領地で出来たものがやはり一番うまい物だ」


この頃から国王には慢心というものがあったのかもしれません。


 農地をつくり、何度目かの春の日。国王は城を広くしようと言い始めました。新しい城を造ることになりました。


「農地のここからここまでを潰してくれ」


春の終わりには設計図が決まり、夏の頃には城が出来ました。秋の頃には普段よりも収穫量が減り、寒い寒い冬を越えました。次の春に種を蒔きましたが、いつになっても芽は出ず、枯れた大地に立派な城がひとつあったといいます。

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「お噺はここまで」

「なぜでしょう?あなた様とは久しく会っていない気がいたします」

「足りない分だけ語りましょう。紡ぎましょう」

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