第四十一夜『宿屋の噺』

「あなた様あなた様。本日はどんな物語をお聞きになりたいですか?」


「今宵はベッドの上でゆるりと四十一夜と参りませんか?」


『宿屋の噺』

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 むかしむかし、片田舎のとある場所に宿屋がありました。その宿屋はあまり人気が無いようでした。なぜそんなことが分かるのかと言えば、ボロボロの外装がそれを物語っておりました。しかし、なぜでしょうか?貧乏たらしい宿屋からは酒盛りをしていること。気分良さそうに歌っていることが分かります。活気はあるようなのです。

 ある夜のこと男女二人組の狩人がこの宿屋にやってきました。


「やったぞ、やったぞ。やっと宿屋を見つけることが出来たぞ」


「あんたここは宿屋なのかい?こんなボロ小屋がさぁ、犬小屋のほうが幾分ましだよ」


無精髭の生えた男が叫び、小柄な女は栗色の長髪を弄くりまわしながら嫌味を言いました。


「なに文句言ってるんだ。これで夜風をしのげるんだぞ。ある程度は我慢しろよ」


このような問答をしていることは丸聞こえでした。なんせ壁も薄ければ、なにもかもボロボロなので。

 彼らが宿屋へと足を踏み入れると女将さんがお出迎えをしてくれました。とびきりの笑顔で


「こんな田舎だと何もなかったでしょう?」

「こんなオンボロの宿屋だけどいつまでも泊まっていいんだよ」


そう言いました。男が宿泊代をポケットから取り出すと、こんな寒い日に外にいたんだからお金は要らないよと言いました。その日は春の陽気があたたかな日でした。


 この宿の宿泊客はみんな若者でした。ひとりふたりの中年はおりましたが数十人が若者でした。


「ここはねぇ、ボロボロだから客からお金はとってないんだ。特に問題はないから心配しないでおくれ。いつでも、いつまでも居てくれたっていいんだよ?実際ずっといるからねぇ、あの人たちは」


二人の狩人は女将の優しさを感じながら、出された酒を飲みました。途中で宿屋に住み着いている常連客とも酒を酌み交わしました。楽しくなり、見たこともない血の酒を飲んでみたり、常連客と飲み比べをしました。

 楽しく酒を酌み交わした二人の狩人は酔っぱらって寝てしまいました。

すると、女将が二人に毛布を一枚かけてあげました。


「久々のお仲間の登場でみんな飲み過ぎたかねぇ。あれだけ気を付けろと言ったのに。まぁ永遠の終の棲家を共に生きる人が来たからよしとするか」

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「お噺はここまで」

「甘い部屋に泊まりましょう。スイートルームとはそういうことではないのですか?」

「また、語ります。紡ぎます」

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