第四十夜『未来を知る者の噺』

「ときにあなた様。未来を知りたいとは思いませんか?明日の天気や想い人への告白、ギャンブルなんて言うのも乙ですね」


「今宵の四十夜でも未来を知りたいと願った者がおりました」


『未来を知る者の噺』

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 むかしむかしあるところに家を持たず、食を持たずのどうしようもない男がおりました。たまに日雇いの仕事をしたと思えば、薄っぺらい給料袋を持ってどこかへ消えるのです。


「へっへっへ、給料が入ったぞぉ。これを全部このサイコロに賭けてやる。そしたら俺の懐はパンパンに膨れ上がるさぁ」


男は決まっているかのように毎度同じ台詞を吐きます。そして、その後もいつも決まっているようでした。


「はぁ?ふざけるんじゃあねぇ。俺は明日から無一文か?遊んで暮らせるのはいつだ?」


こんなことを数えきれないほど繰り返しました。それでも彼は諦めませんでした。

 ある日のこと。男が日雇いの仕事を終え、また賭場へ向かう最中に思いました。


「サイコロの出目が分かれば勝てる」


至極当たり前のことに気がついたのです。千里眼のような特別な力はなにかを犠牲にしなければ発現しないと知っていた彼は両目に傷をつけ、自身で視力を奪いました。そのままいつも通りの道順で賭場まで向かうと、その扉を開く前から何かが見える感覚に襲われます。三つ目の目となる何かが開いたのでした。

 いつも通りサイコロの出目を予想しました。


「転がって、転がって、見えるぞ。俺は大金を手に入れるにふさわしい男だ」

 彼の予想は見事当たりました。二度目、三度目、十度目。もう未来を覗く目を完璧に鍛えてしまった彼の賭けは絶対に外れないものとなりました。その日は賭場に通い詰めて荒稼ぎした一日の帰りでした。不意に頭にいやな物が浮かんだのでした。


「せっかく気分いいのに邪魔すんじゃねぇ」


 彼の脳裏に骸骨が浮かび上がります。サイコロを振る骸骨に賭けをする骸骨。賭場の周りも骸骨で溢れかえっていました。直感的に分かったのです。それが自分たちの住む町の未来だと。


「おかしい。なぜギャンブルの予想ができない?それなのになぜ骸骨は俺を嘲る?」


彼は死に行く自分と骸骨となった自分に襲われました。意識が飛ぶ寸前に世界の終わりが来たかのような暗闇が彼を包みました。

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「お噺はここまで」

「風が吹けば桶屋が儲かるというのでしょうか?将棋をすれば詰むというのとどこが違うのか分かりません」

「ここに来れば私が語りましょう。紡ぎましょう」

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