第三十九夜『素晴らしい建築家の噺』

「はぁ、あなた様。私と二人で暮らせるような家が欲しくありませんか?あぁ、釣れないお方でしたね。忘れておりました」


「いつの時代でも家を建てる職人がいるものですよ。第三十九夜」


『素晴らしい建築家の噺』

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 むかしむかしあるところにダンという建築家がおりました。彼の設計した建物は実に芸術的であり、美術品としての価値もあったほどです。泥臭く汗水垂らして働き、大した給金を貰えない大工たちとダンは全く違う世界にいます。彼は設計図を見せるだけで大工たちみんなが一生遊んで暮らせる金が入ってくるような人間でした。大きく湾曲した屋根を持つ建造物に毒キノコを思わせる色合いの恐ろしい建造物など彼だけにしか描けない設計図をひたすらに発表しました。

 そんなダンがある日言いました。


「田舎町に城を置こう」


もちろんダンは貴族でも王族でもないため城なんて作る必要性はありません。ただ、見栄えがいいからという理由で城の設計図を作り始めました。


「資材は惜しみなく使おうではないか。世界一の高さを誇る城を、世界一の大きさを誇る城を。せっかくだから彫刻も置けるといいだろうな」


彼はずっとずっと鉛筆を走らせて、設計図を作りました。それは壮大であり、自分が生きている間には出来ないだろうということも察しはついていました。


 ダンは設計図を大工たちに見せることにしました。きっとダンの遺作となるであろう建物です。


「お前たちよく聞け。これは私の遺作となる。何十年を掛けたって、いくら資材をつぎ込んだって造り上げるのだ」


大工たちの士気は上がりました。さんざんお世話になったダンとの最後の仕事。そして、本当に人の暮らせるような建物か分からないようなものを手伝うことが無くなったと思った。原動力はこの二つでした。


「分かりました。死んでも完成させましょう」


大工たちは作業を始めました。

 建築開始から一年が経ったころ。床となる土台部分が終わりました。まだ同じような床が十以上残されていましたが、ダンはこの頃に流行り病により亡くなってしまいました。それからというもの彼の途方もない設計図を眺めて建築は進められておりますが、大工たちはもう当時の顔はひとつもなく、彼らの孫の世代もダンとの約束は果たせなかったようでした。

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「お噺はここまで」

「どこの建築家なんでしょうね?百年近く掛かっても完成しない城なんて作るものではありません」

「また明日も語りましょう。紡ぎましょう」

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