第三十八夜『鳥と種の噺』

「鳥とは美しいものですねぇ。翼を広げて大空を舞うのも素敵です」


「今宵は鳥の物語にいたしましょう。三十八夜」


『鳥と種の噺』

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 むかしむかしあるところに一羽の鳥がおりました。その鳥は群れをつくり、快適な場所へ季節が変わればまた違う場所へ移動しました。いろいろな土地を見て回ったその鳥には当初あったであろう目新しさや心を動かすものに出会えないまま大空を進んでいました。

 あるときのことです。半日休まず飛び続けて食事をとることになりました。大地へと降り立ち、鳥たちが口にしたのはキラキラと琥珀色にかがやく果実でした。


「おぉ、もうこんなところまできたのか。この果実は甘くてうまいんだ。中に入っている大きな種を埋めて置けばまた一年もしないうちに生えてくるしな」


ある鳥は甘い汁をちびちびとすすりながらそう言います。自分の一生はこれで終わるのかと思っていた鳥は退屈しのぎに大きな種を持ったまま、空を飛ぶことを考え付いたのです。

 群れの規律は厳しいものでしたが、群れの長に対して


「この琥珀の果実を各地で食べられるようにしていきたいのです」


そう言うとすんなりと種を持っていくことの許可を貰えました。鳥たちは皆してひとつずつ種を咥えました。昼夜問わず種を咥えたまま飛び続けました。その間に新しく五か所に種を残していくことが出来ました。これで次来るときには果実が食べられるでしょう。

 種の残りが九つになったその日は雨でした。

どしゃ降りの雨に強風が襲いかかったため、琥珀色の果実の種を落としてしまいました。その種はちょうどそれぞれ違う男の人へと当たりました。


「種をだいぶ無駄にしてしまったが、しょうがねぇな……」


そんなことを言いながら次に果実を食べられる日を待ちました。

 鳥の群れが頑張った結果はなかなかのものでした。もともと自生していた果実を食べ、自分たちが落としてきた種の場所からも同じ果実が生えていました。


「なかなかだな。しかし、こうなってくると九つも失ったことが残念でならないよ」


この間鳥たちが種を落とした場所を羽ばたき、見下ろします。すると、そこにあった集落には見慣れない九人の赤子の姿がありました。それからというもの鳥たちは男に植物の種を落とすことに楽しみを見いだしています。

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「お噺はここまで」

「鳥が種を上からおとすとか落とし前がつきませんね。種をつけるだけの鳥たちです」

「ふふっ、また語りましょう。紡ぎましょう」

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