第三十六夜『不夜城と眠り姫の噺』

「ふわぁ、とあくびの真似でもしてみましたが、あなた様は眠くないのですか?」


「世の中には夜に眠れない人や昼にも寝てる人などがたくさんおりまして。三十六夜」


『不夜城と眠り姫の噺』

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 むかしむかしあるところに眠ることが大好きなお姫さまがおりました。父である王の言うことにはちゃんと従い、王政の手伝いをしていました。しかし、朝も昼も夜もとてつもない眠気に襲われ、毎日よく眠りました。おおかた起きている時間よりも寝ている時間のほうが多いのだろうと城で働く者たちは思っておりました。

 そんな姫様のことを心配に思った王様はある国の王子に娘を嫁がせることにしました。


「我が娘よ。お前の相手は毎日たくさんの仕事をしている。夜も眠れないほどの不夜城と呼ばれる国の王子だ」


近いうちに王の座を王子に譲るということだったのでお姫さまは王妃ということになります。不夜城と呼ばれるところで公務の少しでもやって、その眠り癖を治すべきだと王様は言っていました。もちろんそのお説教の最中に眠り姫は夢の中へと向かったのですが。

 結婚の日取りや式典の日取りを決め、眠り姫は不夜城の王妃となりました。


「おい、姫さん。結婚したはいいが、俺はお前と馴れ合う気なんて一切無い。ここの異名は知っているだろう?不夜城さ。国のためにやらなければいけないことが山積みだ」


眠り姫は不夜城でも眠たそうにしています。


「そうなの……時間が来たら適当に起こしてちょうだい。夜眠れないと困るから」


そう言ってベッドへと向かいました。


「何様だあいつは?」


新たな王は妻に対して怒りを感じました。

 姫がこちらへ来てから三日が経ったころ。若き王は言いました。


「いい加減きみも働いたらどうだ。こちとら、ろくに眠れていないのだぞ」


彼女は目を覚ましました。そして、気だるそうにベッドから立ち上がり、王に向かって初めて口を開きました。


「うるさいなぁ。仕事終わらせて眠ったらいいじゃない。なぜ寝ていないのか疑問でしかたないわ」


彼女は城の者たちと王様から仕事道具となり得るものを取り上げました。

 彼女はてきぱきと国の問題や財政の問題などに取りかかりました。それは一番働き者の王様が十人いようと出来ないような手際のよさで、半日もせずにだいたいの仕事が片付きました。そして、日が落ちる前に眠り姫はベッドへと向かったのでした。

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「お噺はここまで」

「ふわぁ、本当に眠くなってまいりました」

「また明日。語りましょう。紡ぎましょう」

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