第三十五夜『水統べる者の噺』

「あぁ、本日もいい湯でした。いい時代になったものですね。毎日お風呂に入れるというのは」


「心身が清まったところで第三十五夜」


『水統べる者の噺』

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 むかしむかしあるところに、いくつもの火山がありました。その山の麓に人々は暮らしていました。石造りの強固な家々が並ぶ街並みをひと目見ようと世界中から旅人が集まってくる来ることも幾度となくありました。しかし、どこぞの王城や砦のように立派な建物が見られるかどうかは土地神の気まぐれによるとしか言いようがありませんでした。


「まただ。まただよ。火山が噴火した。みんなで退避しろ死にてぇ奴はおいていく。また石を積み上げる生活が始まるぞ」


半年に一度ほどの周期で起こる噴火によって街並みはその都度無くなってしまうのです。


 どれだけ熱に強いもので家を建てようが溶岩の前ではどうしようもなく無力でした。集落な長老たちは集まって最近の様子を報告し合いました。


「うむ。そちらも被害は大きかったようだな。住居は三月ほどかかるのだろう?壊れる度に建て直すまでの期間が短くなっているが大丈夫なのか?」


積み上げてきた石を倒されてまた積み上げる。そんな地獄の拷問のようなことを長い歴史の中で何千回と繰り返してきた先人たち。彼らは後世を生きる人々のために技術を磨きに磨きました。一日また一日と建築の速度をあげることで今では三月を切るほどで再建が可能になりました。

 しかし、家や街並みを造るということは人生を形作るほど大切なことです。それなりに資源やお金を使うのに壊されるため、火山の街は貧困に苦しんでおりました。


「土地神が怒っていらっしゃるのだ。この際生け贄の一人や二人出すしかないな」


長老たちは一番貧しい家の娘を生け贄にすることを決めました。長老たちはファイナという娘を火口の周りまで手枷を付けて連れていきました。

 一人がファイナの背を押しました。煮えたぎる溶岩の中を落ちていく最中。なぜか、溶岩だったそれは温泉へと姿を変えていました。長老たちが目を丸くしたとき。彼らの後ろにある火口からは熱い溶岩が溢れだし、長老たちは骨すらなくなってしまいました。火山の街は温泉の街として生まれ変わり、ファイナは幸せに暮らしました。

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「お噺はここまで」

「もう一度湯浴みに行ってもよろしいですか?あぁ、あなた様も一緒にどうぞ」

「水も滴るいい語り部は語りましょう。紡ぎましょう」

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