第三十四夜『矛と盾の噺』
「本日はあなた様にも馴染み深いであろうお噺を一つ致しましょう」
「第三十四夜となりました」
『矛と盾の噺』
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むかしむかしあるところに一人の武器商人の男がおりました。政治が不安定な場所を転々として、下剋上でも起こす輩がいないかと思いながら商売をしていました。
「上物だよー。この鎧は頑丈でこれを着とけば間違いないよ。未来ある若者のためならおじさんが安くしてやろう」
調子のいいことを口にしながら、国に不満がある男たちに武器を売っていきます。もし、自分の売った武器のせいで秩序のないような土地になったって、行商の身には関係ありません。
今いる町の若者は王政に対して強い不満を持っていました。新しい政治がしたい若者たちに商人はとある品を売ります。
「これはな、何でも貫く矛なんだ。これで王の首のひとつやふたつやってしまえばいい」
商人は口から出任せを言って、ボロボロの矛を押し付けて帰りました。無駄な荷物がひとつ無くなりました。
また、別の日のこと。今度は隣の町へやってきました。ここは保守派で王の命が絶対。革新派の若者を目の敵にしておりました。
「そこの旦那。革新派の若造を潰したくありませんか?そんなあなたにいい知らせがあります。この絶対に守る盾を使うのです。古くからの伝統を守り抜きましょうぞ」
そう言ってボロボロの盾を押し付けました。どこに行っても売れなかった物を処分出来て商人は満足そうでした。
その翌日に革新派と保守派の内戦は始まりました。かたや未来ある若者。かたや経験がある年寄りたち。どちらが勝とうと商人の知ったことではありません。さっさと国をあとにしました。その時、商人の耳には大地を切り裂くような轟音が聞こえました。何度も何度も、それは夜まで続き、どうやら自分の売った矛と盾が戦っていると聞きました。
商人はあんなボロボロの武器で戦える訳が無いだろうと笑いました。
「この轟音があの矛と盾に出せるはずがない」
商人がそう言った時、音は鳴りやみました。商人の胸が強く痛みだしたのもその時でした。痛みが引くわけでもなく、かといって死に至るほどの痛みにはなっておりませんでした。内戦は一日かからずに引き分けという結果に終わり、戦場にはボロボロの矛がボロボロの盾を表面だけ突き刺したまま放置されておりました。
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「お噺はここまで」
「商人になってみたいという欲求はありますか?冗談です」
「また語りましょう。紡ぎましょう」
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