第三十三夜『幸せな屍の噺』
「あなた様にとっての幸せとはどんなことでしょう?家族がいること。お金を得ること。様々だと思います」
「本日は一風変わった幸せを持つ三十三夜」
『幸せな屍の噺』
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むかしむかしあるところに兄妹がおりました。父は女をつくりどこかへ消え、母親もほどなくしてこの世を去りました。明日のことも保証できない出来ないような、夜に寝てしまえばその夜を越える前に飢え死にしてもおかしく無いほどに貧しい生活を送りました。
兄は日雇いの仕事を転々とし、妹は路上で靴磨きをして銭を稼いでいました。しかし、しょせんはあぶく銭でたかが知れていたため食事すら満足に出来ませんでした。
「よし、この時間になれば売れ残った飯が捨てられる。俺と一緒に食べるぞ」
消えてしまった父はどうしようもない人間でしたが、母親からは人様にみられても恥ずかしくないように礼儀作法を教え込まれました。だとしても、死んでしまえば元も子もありません。兄妹はまるでそこらの野良犬と同じように残飯を漁りました。
季節は流れ、冬になった頃でした。雪がしんしんと積もる中で二人は路上におりました。二人そろって靴磨きをする準備をしましたが、人が通る気配は毛頭ありません。普通の家庭は冬の日には家に集まってパーティーの一つや二つ行います。
「おうちには光があって、人がいっぱいいて、私もあの中に入れるのかな」
妹がどこか悲しそうな表情をしていることを分かっていながら、兄はどうすることもできませんでした。
兄はまず、自分たちを捨てた父親を憎みました。しかし、そんなことをしたって妹は喜ばないし、銭も増えずお腹が空くだけです。気持ちだけでもどうにかしようと思い、妹の手を握ります。
「お兄ちゃんは何があってもお前の味方だからな」
握った妹の手は火を吹いていると思うほど熱くなっておりました。
意識がもうろうとしていますが、妹は話します。
「私たちもおうちが欲しいな。雪のおうちでさ、真っ白いのつくって一緒にくらそう?」
兄はとっさに薬を飲ませるべきだと確信しました。しかし、彼の手持ちにそのようなまとまった金額はありません。頭を働かせました。もし、妹が元気になったとして食べ物はどうするのか?ただでさえ苦しい暮らしが薬によって傾くとなると兄妹共々飢え死にです。
兄は必死に雪の家をつくることにしました。家族は二人しかいない。しかし、とても暖かい家を。太陽が顔を覗かせた頃。通行人によると幸せそうに眠る二つの屍があったそうです。
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「お噺はここまで」
「中世頃にはいい家作ろうなんとやらという言葉があったのですよね」
「またこの安息の地で語りましょう。紡ぎましょう」
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