第三十一夜『壊れた傀儡の噺』

「今宵も語って参りましょう」


「第三十一夜はあれにしましょう」


『壊れた傀儡の噺』

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 むかしむかし、とある町に人形師が訪れました。その放浪の人形師は人々の行き交う大通りで見せ物を始めました。


「さぁさぁ、人形劇を見ていかないか?王国にはびこる貴族たちの熱くて醜い恋模様の結末を」


四角い枠の中には全身に赤い服をつけ、王冠を頭に載せた人形。薄ピンクの華やかなドレスを着る人形。いかにも貴族だと示すような嫌味な顔をする男の人形。貧乏そうだけれども笑顔が眩しい男の人形がおりました。

 人形師は物語の外、上方から黒い糸でこの四体の人形を操りました。ただ二つだけの腕で両手、両足を四体分動かすことは普通の人間ならまず無理でしょう。どんな人形師でもできないような洗練された技です。まるで生きている生身の人間のように、その糸なんて無いのではないかと勘違いしてしまうほどに。


「ナルジュ……私は貴方と共に生きたいの」

「そう言ってレナは父からの縁談を捨て、どこか遠くへ言ってしまいました」


ドレスを着た人形と貧乏そうな人形は涙を流しました。そして、キスをしました。その繊細な動きとは裏腹に誇張され過ぎた顔のパーツはどこか不気味さを感じるほどでした。

 人形師がやっている演目は姫様の恋というものでした。王様が娘のレナに貴族との結婚の話を進めますが、レナは貧乏人のナルジュと恋仲になり王国の追手から逃げて幸せになるという昔から劇と名の付くものでなら何十回と見てきたような内容です。王様は娘を貴族と結婚させたい。それは政治の側面もありますが、幸せを思ってのことです。いままで何不自由なく暮らしてきた生活から自由が消えた生活になるのですから、親であれば我が子が生きていけるのか、孫の顔が見れるのか心配でしょう。

 その2体の人形は熱い抱擁を交わし、唇をかさねました。物語も終盤です。


「二人は熱い熱い夜を過ごしました。その二人は夫婦となり、幸せに暮らしましたとさ」


人形師がその幕を閉じたとき、人々は大きな拍手をしました。それは耳が壊れんばかりの拍手でした。

 人形師が素早くなれた手つきで人形劇の後片づけを始めました。王様の人形と貴族の人形をしまい終え、残りを片づけようとしたときです。ブチンと音を立て、その結果人形たちが地面に転がりました。


「あらら、まだ抱き合ってるみたいになった。でも父親の言うことを聞かないから操り人形でもなんでもなくなったね」

「じゃあ、これにて姫様の恋はようやく終わったってことになります。またどこかで」


二体の人形を拾い、その意図はわからないまま人形師はどこかへ消えていきました。

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「お噺はここまで。自分で自分を操るのは虚しいですから。自由に生きてください」

「明日は少し楽しみにしといてくださいな」

「あなた様のために語りましょう。紡ぎましょう」

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