第二十八夜『割れ物の綿の噺』
「毎夜のことなのですが、この時間は眠くなりますね。ふかふかの布団に入りたいものです」
「ベッドの方がよろしいですか?まぁ、今宵は眠たくなる第二十八夜」
『割れ物の綿の噺』
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むかしむかしあるところに一人の男がおりました。その男は結婚を決めた女性がおり、彼女のお腹には二人の子どももおりました。いままで家族に養われていた者が自分と二人の家族を養う側の人間になるのです。彼の心配は相当なものでした。愛しているが故に、大切にしたいし共に生きていきたいけれど、どうしていいか分かりません。
そのため、彼は自分の両親に家族の作り方について尋ねることに致しました。
「家族の作り方だ?好きな人を見つけて一緒に寝るだけだ。お前も年頃だから分からないことはないだろう」
「そういうことではなく、もしも良い家庭を作りたいのであれば、この箱を持っていくと良い」
父親から渡された箱を彼は開けてみました。そこには綿がしっかりと詰められていました。しかし、綿だけの重さにしては随分とずっしりと重たいような感覚がありました。
彼が周りの綿をどかして中を見ると、どこにでもありそうなガラス玉が中央に入っているということに気が付きました。
「持ってみろ。これは重いぞ。落としたら割れてしまうのがこのガラス玉と人の心だ」
「ガラス玉だけだと冷たいだろう?保護する意味も込めて綿を詰めたから温もりがある。これが人の愛情だ」
彼はずっしりとしたガラス玉の重さと綿の暖かさを掌で感じました。
まだ、伝えたいことがありそうな父親はやかんの方へと視線を向けました。すると、その意図をすぐさま理解した母親はやかんを手に取ります。次の瞬間には男が持つガラス玉めがけてお湯がかかってきました。沸騰した熱いものが彼を襲います。しばらく治らない火傷になるだろうと悟りました。
「暖かいだろう?熱いか?これもまた愛情だ。床が濡れていない。なぜなら、この綿が全て吸収してくれるからだ」
「重いだろう?熱いだろう?落としても別に構わないぞ。ガラス玉にヒビが入るだけだからな。まぁ、最悪割れてしまうが」
男は意地になってガラス玉をしっかりと持ち続けました。最初にこのガラス玉を持ったときの何倍の重さになっているか分かりません。フワフワ感などとっくに居なくなった周りの綿を見ながら考えました。愛とはなんて美しく、重く、暖かくて冷たいものだろう。そして覚悟を決め、妻の待つ我が家へと向かうのでした。
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「お噺はここまで」
「濡れた布団は風邪を引きますね」
「暖かい布団でまた語りましょう。紡ぎましょう」
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