第二十七夜「魚の一族の噺」

「今宵は何を語りましょう?」


「せっかくですので二十七夜は海の物語」


『魚の一族の噺』

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 むかしむかし、まだ人間も陸地に住む生物もまったくいない時代のことです。すべての生命は海に暮らしておりました。多くの魚たちがおりましたが、その性質は大きく分けて二つ。争いを好むか、好まないかの二つです。

 調和を掲げている者たちの大切にしていることは長生きすることです。歳を取り、経験を積み、後世に繋いでいきます。そして、身体も大きくなっていき、骨も大きくなります。自分が死んだときに大きな骨を埋められるようにすることが調和勢の望みでした。

 一方で対立している戦乱勢というのはその名のとおり喧嘩ばかりして、相手を食いちぎります。戦いを挑んできた相手を喰らいつくし、その骨を散らかすことで己の力を誇示することを重要視してきました。

 そんな二つの勢力でしたが、普段から争いを好まない調和勢が一方的に攻め込まれて負けるということが常に起こりました。調和勢の長老たちは戦乱勢にその身をバラバラにされ、その大きな骨は本拠地に投げ込まれみるも無惨になっておりました。若い魚しか残っていない調和勢の中で、ただひとつだけ年齢とは不釣り合いな容姿の者がおりました。今まで見てきたどの長老の骨よりも大きいということがわかるその身体には、背中に大きなでっぱりがあります。そして、岩をも噛み砕ける硬い顎と鋭い歯もありました。

 調和勢のなかでもその魚の一族は偉大な者になる素質がありました。しかし、戦乱勢に寝返る者やデカブツとして舐められ、そのまま死んでいく者がほとんどでした。唯一その骨が遺され、尊敬されると思われるのが彼でした。しかし、彼は臆病者でした。仲間たちを守り抜けないほどに優しすぎたのです。

 しびれを切らした一匹がいいます。


「やられっぱなしでいいのか?私たちは慎ましやかに平和に暮らしたいだけだ。戦乱勢に邪魔されては敵わん」

「幸いお前さんは若いのに身体がデカイ。戦乱勢に負けない武器もある。戦ってくれるか?お前が頼りだ」


周りの小魚たちも彼を焚き付けます。


「平和を守るために戦うことにする」


大きな身体が相手の本拠地へと向かいました。

 しばらくの時が経ち、調和勢の英雄が帰還しました。彼はたった一匹で戦乱勢を退治したのです。


「これは戦ったやつの骨だ。俺が死ぬときは一緒に埋めてくれ」


彼は英雄として皆に慕われて生きました。とても偉大でした。調和勢の最大の英雄の身体には一族の他の者と同じく骨が無くなり、鋭い歯が残っておりました。それはどこか戦乱勢のような雰囲気があったといいます。

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「お噺はここまで」

「調和勢の大英雄は何者なのでしょう?」

「また語りましょう。紡ぎましょう」

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