第二十六夜『雌鳥の卵の噺』

「生命の誕生とは実に神秘的だと思いませんか?産まれたばかりの子が自力で立つシーンは感動しました」


「少しだけ生命の誕生の物語を。第二十六夜」


『雌鳥の卵の噺』

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 むかしむかしある平原に一羽の雌鳥がおりました。その雌鳥はひとつの生物として当然のごとく、種としての繁栄を願い生きていました。しかし、普通のように卵を産み、暖めるだけでは雛を育て上げることは困難でした。なんせ平原に暮らしているのですから。卵を産んだところで卵のまま、鷹や蛇に食べられてしまうことでしょう。

 何十羽という雛が産まれても、何百個という卵を産んでもどうせ食べられてしまう。そう思った雌鳥は考えました。


「わたしの産む卵がほかに食べられないくらいに硬い殻を持てば子どもたちを守れるわ」


雌鳥は母親として硬い卵を産むために、たくさんの昆虫を食べました。そして、近所にある木の実や果物も食べ尽くしました。栄養をたっぷりと蓄えましたが、それでも殻の強度には限界があるだろう。いくらなんでもそれくらいは想像に難くありませんでした。


 ある日の昼下がりのこと。雌鳥は産まれてくる我が子のことを考えながら、散歩をしていました。そんなときに大きな洞窟が遠くの方に見えました。


「洞窟?なら石や鉱石があるはず。そして、それは硬くて美しい」

「つまり、私が石やルビーにアメジストを食べたら殻は硬くなる。そして子どもたちは宝石のように美しくなるのかしら?」

 それからというもの雌鳥は自分の食事のために昆虫を捕まえに平原へと向かい、愛すべき子どもたちを守るために洞窟で石を食べ続けました。つつくことでしっかりと細かくした宝石をひたすらに飲み込み続けるのです。幸い洞窟には湧き水がありました。そして、今は生物が居ませんでした。まるで洞窟を終の棲家にしたような安らかに眠る骨がいくつか残っておりました。

 天敵がいない中でしっかりと栄養をつけた雌鳥は卵を産みました。仮に天敵に襲われることがあっても鉄のような硬さを持ち、宝石のように輝くそれを食い破られることは無いでしょう。きっと中から出てくるのもきらびやかな子どもたちなのだろう。雌鳥は疑いませんでした。


「暖めてあげるね」


雌鳥はそう言って卵の上に覆い被さります。

産まれる前から襲われる心配がないというのは素晴らしいことです。ゆっくりゆっくりと暖めてあげました。

 平原を駆ける遊牧民の伝承によると、骨がゴロゴロと転がるその洞窟には、鉄のように硬い。そして、宝石のように美しい丸い何かが中央に転がっているそうです。

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「お噺はここまで」

「生命は美しいのは愛があるからです。お分かりになりましたか?」

「美しいことも醜いことも語りましょう。紡ぎましょう」

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