第二十五夜『失くし物の噺』
「あなた様あなた様。私の髪飾りどこに行ったか知りませんか?確かにつけていたはずなんです。」
「とりあえずまずは語りましょう。二十五夜」
『失くし物の噺』
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むかしむかし、リブルという名の小さな王国が存在しました。リブル王国の王はオル・リブルといい、赤を基調とした服を身にまとい、黄金に輝く王冠を頭から取り、手に持ちかえました。いかにも上質な素材でできている服に加え、普通の国家なら財政が傾いてしまうであろう大きな宝石があしらわれた指輪を左手の小指以外の9つの指に付けておりました。
豪快で曲がったことが嫌いな王様は民から慕われていました。しかし、オル・リブルには不可解な症状がありました。
「……む?王冠が無いぞ。誰が盗んだ?もしくはどこかで落としたか?おい、だれか王冠の在りかを知っている者は申し出てくれ」
そう口にした国王の頭には王冠がありません。
「オル・リブル様。王冠は先程の式典で外して貴方の両手にしっかりと存在するとおもうのですが……」
国王の側近が言いました。
『……あぁ。これだったか。すっかり忘れておったわい』
オル・リブルは何事もすぐ忘れてしまうのです。やるべき公務も自分の服だって忘れてしまうのが国王でした。
そんな国王にも当然子どもがおりました。一人娘のトラビンス・リブルです。彼女を国王はとても可愛がっておりました。唯一の肉親なのですから。この子にも母はいたでしょうし、兄弟もきっと居たことでしょう。一国の王とはそういうものですが、オル・リブルは自身の家族関係も覚えておりません。
父からの愛を一身に受けたトラビンスですが、彼女もまたオルと同じく何事もすぐ忘れてしまう体質の持ち主でした。
「今日はね、友達と会ってね、一緒にお茶したの。楽しかったなぁ。」
「でも、なんでか忘れちゃったんだけど締め付けられたように身体が痛むの」
そんな日々の出来事を聞くたびにオルは小指を立てます。そして、言うのです。痛み忘れろと。
また、なぜか耳鳴りがすると聞けば小指を立てて、音忘れろと言います。なぜか怖いものを見た気がすると聞けば、光忘れろと小指を立てます。その度にトラビンスは憑き物が取れたかのように溌剌と動き回りました。
「今日はね、なんか喋りたくないような気がするの。理由は忘れたけど」
トラビンスはボロボロのドレスを少し赤く染め、父親のいる方とは違う方向を向き、とても舌足らずの幼子のように話します。
「そうなのかい?随分様子がおかしいようだが、まぁいい。声忘れろ」
「もう忘れたいんだ。すべて忘れてくれ」
そう言ってオル・リブルは左手の小指を立てました。もう国王が言うには、世継ぎや家族は全くいないとのことでした。
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「お噺はここまで」
「先ほど湯浴みに行った際に髪飾りを外したままでした。あなた様も茶目っ気のある方が好きでしょう?」
「また明日、語りましょう。紡ぎましょう」
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